日立、新規原子力発電所建設プロジェクトから撤退

(英国)

ロンドン発

2020年09月18日

日立製作所(以下、日立)は9月16日、英国ウェールズ北西岸に接するアングルシー島のウィルバ・ニューウィッドにおける新規原子力発電所建設プロジェクト(ホライズンプロジェクト)の事業運営から撤退することを発表した。

同プロジェクトは、2012年に日立が英国ホライズンを買収し、日本で建設・運転実績のある改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)をベースに、英国の環境に適合した発電所を建設し、二酸化炭素を排出しないクリーンなエネルギーの供給を目指していた。しかし、日立は英国政府との資金調達モデルなどの合意に想定以上の時間を要すると判断し、2019年1月に民間企業としての経済合理性の観点から同プロジェクトを凍結していた。

凍結から20カ月が経過し、新型コロナウイルスの感染拡大の影響などにより投資環境が厳しさを増していることを考慮し、今回、同プロジェクトの事業運営から撤退することを決定した。日立は今後、英国政府や関係機関とともに、建設予定地の扱いや将来の選択肢について調整する予定だとしている。

英国議会下院で、政策がウェールズに与える影響などを評価するウェールズ事務委員会は同日、「ウェールズ最大のエネルギープロジェクトとして、技能向上や雇用に良い影響を与えるはずだったホライズンプロジェクト撤退の決定は、2050年までに温室効果ガス(GHG)の純排出ゼロを目指す英国、ウェールズにとって大きな打撃だ。国内の原子力発電所の老朽化による低炭素、高機能な発電所への切り替えが急がれる中、エネルギー安全保障を確保することが今まで以上に重要となった」との声明を発表した。

原子力産業協会(NIA)のトム・グレートレックス最高責任者も、同日、GHG純排出ゼロの実現に向けて、早急に新しい原子力プロジェクトを推進する必要性を明確に示し、日立撤退後も、ウィルバ・ニューウィッドが原子力発電所の候補地として最適ではないかと述べている。

エネルギー関連の業界団体のエナジーUKのエマ・ピンチベク最高責任者は、「2050年までにGHGの純排出ゼロを達成するには、低炭素技術を組み合わせる必要がある。日立の撤退は残念なニュースではあるが、GHGの純排出ゼロと雇用創出の実現について、専門家のアドバイスに沿った、複数の原子力プロジェクトが現在も進行中だ」「新規原子力への資金調達モデルに関する決定を含め、政府の明確な原子力戦略を期待している」と、同日コメントした。

(宮口祐貴)

(英国)

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