テレワーク法公布、在宅勤務の細則明らかにし労働者権利保護、産業界からは不評

(アルゼンチン)

ブエノスアイレス発

2020年08月19日

アルゼンチン政府は8月14日、7月30日に可決された法律第27555号外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますに基づくテレワーク法を公布した。同法は、新型コロナウイルス感染拡大の影響によりテレワーク勤務を行う労働者が増加する中、在宅勤務形態の細則を法的に明らかにし、労働者の権利を守ることを目的とする。各業種・活動における具体的な規制は同法を基に団体交渉を通じて定める。同法の施行は、政府が3月20日に発令した外出禁止措置が解除された時点から90日後としている。

同法の主な内容については、以下のとおり。

  • テレワーク勤務の従業員は出社勤務の従業員と同等の権利と義務を有し、賃金はテレワーク勤務に移り変わったことによって、出社勤務時より下回ることがあってはならない。
  • 労働時間は労働契約法など現行規則に従い、書面によって事前に同意する。
  • テレワーク勤務の従業員は労働時間終了後、「つながらない権利」を有する。この権利を使うことによって、就業規則への違反とはみなされることなく、制裁の対象ともならない。また、雇用主は勤務時間外にメールのやり取りなど連絡を取ってはならない。利用されるプラットフォームやソフトウエアは、勤務時間外の連絡を妨げるものとする。
  • 13歳未満の子供または介護が必要な高齢者など扶養家族がいる場合、介護のための時間調整や仕事を中断することを認める。
  • テレワーク勤務の選択は各従業員の任意であり、書面によって同意が必要。また、従業員が望めば、再び出社勤務に戻ることができ、雇用主はこれに従い、元の勤務先または従業員の住宅に最寄りの勤務先での業務を与える。雇用主がこれを拒否した場合、従業員は解雇状況とみなすことができ、また、法的に出社勤務復帰を要請することができる。
  • テレワーク勤務に当たり、雇用主は従業員に必要な通信機器(ハードウエア、ソフトウエア)、その他必要なツールやサポートを与え、設置費やメンテナンス費も加えて、雇用主が負担する。テレワーク勤務によって通信費およびその他サービス費(電気代など)が上昇した場合、雇用主が補填(ほてん)する。
  • 業務に必要な新規技術の導入のための研修などは雇用主が負担し、従業員の業務に加算されてはならない。
  • テレワーク勤務の従業員は労働組合関連法に基づく権利、団結権などを有する。
  • 労働災害法に基づき、テレワーク勤務で生じた事故・災害については、労災の対象となる。
  • 雇用主は会社の財や情報の保護のために管理システムを導入することができるが、従業員のプライバシーを侵害する監視ソフトなどの活用は禁じる。
  • アルゼンチン国外でのテレワーク勤務を行った場合、従業員の居住地または会社が位置する場所の法律を適用できる。従業員にとって有利な方を選択できる。外国人非居住者を雇用した場合、当局への許可申請が必要で、業種によっては人数が制限される。
  • 所管省庁は、労働・雇用・社会保障省であり、テレワーク勤務を実施する企業は同省に登録を行い、使用するソフトウエアまたはプラットフォームの情報、テレワーク勤務を行う従業員名簿を同省に提出する必要がある。

今回のテレワーク法は議会で審議されていた時点から産業界には不評だった。7月31日付の現地紙「ラ・ナシオン」によると、関連団体は、既存の労働契約法に基づいて在宅勤務は問題なく実施していた中で、今回のような厳格な規則を急ぎ定める必要はなく、「同法によってテレワークの新規雇用を逆に抑制させる可能性が高い」と主張している。

(山木シルビア)

(アルゼンチン)

ビジネス短信 b5f35344629c3627