自動車分野のルールや日系企業への影響を解説、ジェトロによるUSMCAウェビナー

(米国、メキシコ、カナダ)

ニューヨーク発

2020年07月13日

ジェトロは7月2日、7月1日に発効した米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA、2020年7月2日記事参照)に関してウェビナーを開催した。原産地規則など協定利用のための実務面のほか、日系企業への影響などについて説明が行われた。ウェビナーには645人が参加した。その概要を以下に紹介する。

USMCAの特恵関税待遇(無関税メリット)を得るには、輸入製品がUSMCAの規定する原産地規則を満たす必要がある。USMCAの原産地規則は同協定の前身である北米自由貿易協定(NAFTA)に比べて複雑で、特に自動車分野はトランプ米政権がメキシコの対米輸出を減らす狙いからルールが厳格化されている。ジェトロ・メキシコ事務所の中畑貴雄次長は「完成車の原産地規則は、通常のFTAで要求される付加価値基準に加え、特定の自動車部品および鉄鋼・アルミニウムの域内調達比率や、高賃金地域で一定の付加価値要件を満たす必要がある」と述べ、各要件についての解説を行った。

中畑次長は、原産地規則を満たすための手順として、関税分類変更基準(CTC)が適用できない完成車や一部の自動車部品を除き、CTCの活用をまずは検討するよう助言した。CTCであれば、一部の素材の現地調達が難しいメキシコでも原産地規則を満たせる可能性がある。CTCが使えず付加価値基準に頼らざるを得ない場合は、完全累積や中間材料などの救済措置(注)も活用しながら基準達成を目指すべきとした。なお、USMCA発効に伴うサプライチェーンの検討については、米国へ輸入する場合、乗用車や多くの自動車部品の関税率が2.5%と比較的低い一方、調達先や生産拠点の変更には多大なコストがかかるため、生産移転は慎重に考えるべきとコメントした。

次に登壇したジェトロ・トロント事務所の酒井拓司所長は、協定のカナダへの影響について説明した。ジェトロの調査によると、在カナダ日系企業の54%がUSMCA発効の「影響はない」と回答しており、USMCAが求める現地調達比率を満たしているとする企業例を紹介した。一部の企業からは、日本や中国からの部材を北米産に切り替える動きに伴い、市場獲得の機会を期待する声も聞かれる。

在米日系企業への影響について、ジェトロ・ニューヨーク事務所の磯部真一所員は、特に自動車産業において、「米政権の政策の不透明性に加え、新型コロナウイルスなど想定外のリスクを考慮すると、将来的に米国内の生産比率を上げざるを得ないとの意見が聞かれる」と指摘した。また、最近のロバート・ライトハイザー米国通商代表(USTR)の発言から、米政権は米国の自動車関連雇用の喪失を問題視する向きが強く、USMCA発効後にメキシコにおける労働法の順守状況をめぐり、協定の紛争解決手続きが頻繁に利用される可能性があるとした。

ウェビナーの録画動画・講演資料はジェトロのウェブサイトから閲覧可能。

(注)原産地規則の救済規定については、ジェトロの「TPP11解説書PDFファイル(14.3MB)」の原産地規則編に概要が記載されている。ただし、細かいルールはUSMCAとTPP11で異なるため、実際の活用の際にはUSMCAの協定本文や統一規則を確認する必要がある。

(藪恭兵)

(米国、メキシコ、カナダ)

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