EU理事会と欧州議会、消費者保護を強化する集団訴訟法案を正式採択へ
(EU)
ブリュッセル発
2020年07月10日
欧州議会の法務委員会は7月7日、消費者の集団的利益の保護を目的とする団体訴訟をEUの全加盟国で可能にする指令案を承認した。グローバル化やデジタル化により、同一の不法行為により多数の消費者が被害を受けるリスクが増加している。こうした被害に対し、従来は一部のEU加盟国でしか十分な団体訴訟制度が整備されておらず、複数の加盟国にまたがる被害に対しても、複数国の消費者が共同して権利救済を受けることが難しかった。指令案は、消費者に対する不法行為対策を改善し、司法への消費者のアクセスを促進することで、EUの域内市場の機能向上を目指す。
消費者団体などによる救済訴訟を通じ、EUレベルでの消費者保護を可能に
指令案によると、事業者による消費者の集団的利益を害する事案のうち、特定のEU法(注1)の違反に対し、適格団体(qualified entities)が差し止めと救済措置(注2)を求めて、加盟国の裁判所あるいは行政当局に対して団体訴訟を起こすことができる。消費者個人は訴訟の原告になることなく、適格団体が消費者を代表して団体訴訟の提起を行うことが可能となる。司法による消費者保護の実効性を高めるのが狙いだ。加盟国の国内だけでなく、加盟国間の国境を越えた不法行為にも適用する。
また、指令案は団体訴訟の乱用防止対策として、訴訟費用の敗訴者負担を原則とすることや、裁判所あるいは行政当局が手続きの最初の段階で、明白に根拠のない訴えを却下できることなどを含む。さらに、利益相反の観点から、適格団体には第三者からの資金提供の開示などを含む多数の透明性要件が課される。
今回の指令案は既にEU理事会(閣僚理事会)と欧州議会の間で政治合意がなされているため、今後、両機関で正式に採択され、成立する見通し。EU官報への掲載から20日後に施行される。加盟国は24カ月以内に指令を国内法制化し、さらにその6カ月以内に適用開始することが求められる。
(注1)対象となるEU法(同指令案に基づく加盟国国内法を含む)には、一般的な消費者保護法に加え、データ保護、金融サービス、旅行・観光、エネルギー、通信、環境・保健、航空・鉄道の旅客の権利などの分野を含む。
(注2)救済措置には、EU法および国内法に基づく適用可能な賠償、修理、交換、減額、契約終了、支払済み代金の返還などの措置を含む。
(吉沼啓介)
(EU)
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