年金制度改革法案を発表、雇用主と政府の拠出率引き上げや最低加入期間の短縮など

(メキシコ)

メキシコ発

2020年07月27日

メキシコのアルトゥーロ・エレラ大蔵公債相は7月22日のアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール大統領の記者会見の場で、社会保険庁(IMSS)の年金制度に加入する民間の正規労働者の確定拠出型年金に関連する改革法案を国会に提出すると発表した。9月1日から始まる議会で審議される。改革法案は、(1)憲法改正(第4条に「高齢者は年金を受給する権利を有する」との規定追加)、(2)社会保険法の改正、(3)民間年金運用機関(AFORE)の手数料削減や運用利回りを高めるための法制度改正からなる。重要な改正は(2)で、以下の内容となる。

  1. 雇用主拠出率、政府拠出率の引き上げ
  2. 最低加入期間の短縮
  3. 最低保証年金額の引き上げ

1.については、雇用主拠出率を現行の計算基準給与(SBC、注1)の5.15%から8年かけて段階的に13.875%まで引き上げる。労働者の本人拠出率は現行の1.125%から変更しない。政府拠出率は現行の0.225%(注2)から労働者の給与水準に応じて1.798~8.724%まで引き上げる。ただし、政府負担分は給与水準が測定更新基準〔UMA、2020年は1日86.88ペソ(約417円、1ペソ=約4.8円)、1カ月2,641ペソ〕の4倍までの労働者にしか拠出されない。2.は、現行制度では1,250週(約24年)のIMSS加入期間がないと年金が受け取れないが、750週に短縮し、その後10年かけて段階的に1,000週まで引き上げる。これにより、年金を受け取れない正規労働者(注3)の比率は、現行の44%から3%に引き下がると推定している。3.は、年金受給資格を持つ労働者が受け取れる最低保証年金の受給額を平均3,289ペソ(給与水準などに応じて変動)から4,345ペソに引き上げる。これらの改革により、年金受給額は全正規労働者平均で4割程度増加するとみている。

経済界や労組も改革法案の内容に同意

今回の年金改革法案には、企業家調整評議会(CCE)やメキシコ経営者連合会(COPARMEX)などの経済界や、労働組合の代表も賛成しているため、国会審議は順調に進むとみられている。米州開発銀行(IDB)が2018年11月に発表した報告書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)によると、メキシコの年金受給額の最終給与に占める比率は44%で、同じく確定拠出型の年金制度を有するチリやペルー(38%)より高く、コロンビアと同率だが、ブラジルやアルゼンチンなど確定給付型の年金制度を持つ国のラテンアメリカ・カリブ地域平均(64.7%)を大きく下回る。また、民間正規労働者の44%が加入期間の不足で年金を受給できていないため、退職後の生活は厳しい。高齢化が徐々に進む中、年金制度改革は高齢者の消費を活性化させ、消費市場を拡大する効果がある。また、年金制度の魅力を増すことにより、就業人口の6割弱に及ぶインフォーマル就労者の正規化を促す効果もあるため、経済界も年金制度改革の必要性を従来から認めていた。

(注1)基本給に福利厚生費を加えた広義の給与。

(注2)実際にはこれに加えて給与水準に応じた社会負担金(1日当たり固定額)が政府から拠出される。

(注3)加入期間が1,250週に達しない労働者は年金を受け取れないが、それまでに個人年金口座にためていた運用額を一括で引き出すことができる。

(中畑貴雄)

(メキシコ)

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