人の自由な移動を制限する国民発議、政府は反対キャンペーン開始

(スイス)

ジュネーブ発

2020年06月24日

スイスのカリン・ケラー=ズッタ-法務・警察相は6月22日の記者会見で、9月27日に予定されている国民投票で「節度ある移民受け入れのために(制限イニシアチブ)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」(国民発議)がかけられることについて、労使団体とともに否決するよう国民に求めた。

人の自由移動はEUが市場アクセス交渉で重視している項目であり、スイスもEUとの間で人の自由移動に関する協定(2002年発効の複数分野の自由化協定「第1次2国間協定」の一部)を締結しているが、右派の国民党や移民反対層の主導でこれに反対する国民投票が行われてきている。今回のイニシアチブは、憲法を改正してスイスが自律的に外国人移民の受け入れを規制可能にすること、スイスが外国人の自由移動を認める国際条約などを締結できなくすることを目的とし、EUと締結した人の自由移動に関する協定の撤廃も求めるものだ。スイスがEUと交渉中の「制度的協定(Institutional agreement)」は人の自由移動に関する協定の存在を前提としており(2019年6月17日記事参照)、このイニシアチブが可決されれば、制度的協定の再協議をはじめ、EU市場へのアクセスに大きな影響が出るものと考えられる。

記者会見では、人の自由移動に関する協定は他のEUとの経済的に重要な協定と密接に結びついており、人の自由移動を否定すればEUとの関係全体を危険にさらすとし、EU市場への自由なアクセスが認められなくなると、中小企業をはじめとするスイス企業が競争力を失ってEU諸国との貿易が難しくなり、経済的に大きな影響が出ることなどが指摘された。

一方で、移民反対層にも配慮しており、国内労働者の優先採用促進施策など国内労働市場保護に向けたさまざまな措置が取られていることや、スイスはEUや欧州経済領域(EEA)に組み込まれるのではなく、国益を守りつつ市場アクセスを確保するためEUや他の国と個別に自由化協定を結ぶアプローチを取っていることも強調した。

今回の国民投票は当初5月に実施予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大により9月に延期された。既に2019年に連邦参事会(内閣)と連邦議会は対案を示すことなく、国民にイニシアチブの否決を求める方針を決めている。国民投票に向け、これから政府や経済団体はイニシアチブ反対キャンペーンを展開する。

(和田恭)

(スイス)

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