関税優遇措置撤廃の対米輸出への影響

(香港)

香港発

2020年06月03日

中国全国人民代表大会において香港の「国家安全法」制定方針が採択されたことを受け、トランプ米大統領は5月29日の記者会見で、香港に認めてきた関税などに対する優遇措置を廃止すると表明した。香港は「米国-香港政策法」に基づき中国本土と別の関税地域として位置づけられており、今後中国本土と関税面で差異なく扱われた場合、香港からの対米輸出にどのような影響が出るか関心が高まっているが、香港政府は、影響は限定的としている。

対米輸出額は全体の7.6%、香港原産品は0.1%

2019年、香港の輸出総額は3兆9,887億香港ドル(約55兆8,206億円、1香港ドル=約14円)だった。うち、米国向け輸出額は3,040億香港ドルで、全体の7.6%を占める(添付資料表1参照)。2015年は9.5%を占めていたが、割合は減少傾向にある。

対米輸出額のうち、香港原産品の輸出額は37億香港ドルで、輸出全体の0.1%を占めるにすぎない。主要品目は宝飾品関係となっている(輸出主要品目については添付資料1参照)。

一方、海外から香港を経由し米国へ輸出される再輸出額は3,003億香港ドルで、そのうち中国原産品は2,332億香港ドルと再輸出額全体の77.6%を占める(添付資料表2参照)。品目別では、通信関連機器が多くを占めている(主要品目については添付資料2参照)。

対米輸出額が輸出総額に占める割合は、近年減少傾向にある。また、香港原産品の輸出全体に占める割合は0.1%にすぎない。中国原産品についても、品目によっては既に米国の制裁関税の対象になっていると考えられる。このため、仮に米国が関税を上げたとしても、影響は限定的とする意見が現時点では多い。

米国と業務を行っている在香港日系商社へのヒアリングでは、米中貿易摩擦の発生時から既に対応を進めており、直接的な輸出への影響は少ないとしている。

また、香港科技大学経済学部の朴之水(アルバート・パク)首席教授は、中国大陸から香港を経由する再輸出額は減少傾向にあり、香港が独立関税区の地位を失ったとしても、中国大陸と世界各国との貿易に対する直接的な影響は大きくないとしている(「香港経済日報」6月1日)。

香港政府の陳茂波(ポール・チャン)財政長官も5月31日付公式ブログで、香港原産品の米国向け輸出については、輸出額全体の0.1%未満であり、米国の措置の影響は限定的であるとしている。

(渕田裕介)

(香港)

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