政府が地場穀物企業の接収を発表

(アルゼンチン)

ブエノスアイレス発

2020年06月22日

アルベルト・フェルナンデス大統領は6月8日、記者会見を通じて、地場穀物大手ビセンティンの経営権を接収する法案を議会に提出するとともに、同社の経営を国が行うと発表した。大統領は「アルゼンチン経済と、特に同国にとって重要な穀物市場において、同社に穀物販売および食品産業など、業界の動向に影響するような役割を果たしてもらうため」と述べた。そして「同社を救出することが目的」と強調した。また、「アルゼンチンの食糧主権を確立するために有益」とも主張した。

議会に提出される法案には、ビセンティンの接収とともに、同社資産が国営石油会社YPFの農業部門「YPFアグロ」が管理する信託基金の一部として繰り入れられる方針が加えられる予定。

会見翌日の9日付官報にて公布された必要緊急大統領令(DNU)522/2020号PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)によれば、ビセンティンS.A.I.C.の債務は993億4,526万ペソ以上(約1,535億円、1ペソ=約1.54円)に上り、同社は2019年12月4日から債務不履行に陥っており、2020年2月10日に破産宣告している。

主要債権者は国立ナシオン銀行、州立ブエノスアイレス銀行のほかに、国内外の民間銀行なども含まれる。同社は、2018/2019年度には840万トンの大豆・大豆油輸出実績を有し、国内6位の主要穀物販売会社であることに加え、他にもバイオディーゼル、綿、ワイン、肉加工ビジネスも手掛け、5,600人以上の従業員を雇用する。政令は、同社の機能、資産、雇用を維持する目的で、60日間に渡って交渉に国が介入すると定めた。

6月9日付の現地「エル・クロニスタ」紙によると、ビセンティンはイタリアから移民した家族によって1929年にサンタフェ州において設立された。ビセンティン・ファミリー・グループはビセンティンS.A.I.C.の株主として、大豆粉・大豆油・バイオディーゼルを生産するレノバ、牛肉加工のフリアル、綿生産のアルゴドン・アベジャネーダ、乳製品のアルサ、ワイン会社のビセンティン・ファミリー・ワインなどのオーナーだ。

政府の決定を受け、多方面から批判の声が上がり、市民による反対デモが行われた。国内の大手企業が主なメンバーとなっているアルゼンチン経営者協会(AEA)は、「法的安定性という基本原則が尊重されていない」とし「輸出を行う企業の国有化は大きな間違いで、撤回すべきだ」との声明を発表した。企業家側は、これを機にフェルナンデス政権が多くの企業の国有化を開始する方針ではないかと危惧している。大統領は、ビセンティンの経営に国が関与することを発表する前にも、「民間企業の接収計画はない」と強く断言していたからだ。

アルゼンチン農村協会(SRA)は、「これまでの歴史上、国家が農畜産業、穀物貿易に関与した結果、問題をさらに悪化させただけだった」と政府決定を懸念した。アルゼンチン農牧連盟(CRA)およびアルゼンチン農業連盟(FAA)は、正式な声明は発していないものの、同連盟の代表らはSRAと同じ意見で、汚職も増加すると説明している。他方、農協団体連盟(CONINAGRO)および農業関連労働組合側は、雇用の維持や小規模生産者を守る取り組みだと政府決定に賛同している。

(山木シルビア)

(アルゼンチン)

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