欧州委、次期中期予算を増強する復興基金を提案

(EU)

ブリュッセル発

2020年05月28日

欧州委員会は5月27日、新型コロナウイルス感染拡大からの復興のための基金を含んで増強した2021~27年の次期中期予算(多年度財政枠組み:MFF)の新提案PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を発表した。「次世代のEU」と名付けられた復興基金の規模は7,500億ユーロで、うち5,000億ユーロは返済不要な補助金(grant)、2,500億ユーロが融資(loan)のかたちで加盟国を支援する。次期MFFの改訂案1兆1,000億ユーロと合わせたEU予算の規模は1兆8,500億ユーロに上る。

今回の提案は4月23日の欧州理事会(EU首脳会議)での要請(2020年4月24日記事参照)に基づき欧州委が取りまとめたもの。同じく欧州理事会が承認した雇用・企業・加盟国へのセーフティーネット確保のための5,400億ユーロ相当の支援パッケージとは別枠の復興ツールになる。

加盟国支援・民間投資誘導・保健課題への対応強化が3本柱

欧州委によると、復興基金は3つの柱からなる。第1は加盟国が実施する諸政策の支援で、「復興・回復ファシリティー」と名付けられた総額5,600億ユーロ規模の加盟国向け給付金と融資が中心となる。第2の柱は民間投資を誘導する各ツールで、「グリーン」や「デジタル」といった重点分野に投資する企業の支払い能力増強の支援に310億ユーロを確保するほか、中期投資戦略「インベストEU」プログラム(2018年6月14日記事参照)を強化する。第3は新型コロナ危機の教訓を生かした保健課題への対応策だ。例えば、将来の保健衛生上の危機に対処すべく94億ユーロを投じて新保健プログラム「EU・フォー・ヘルス」を立ち上げるほか、EUの次期研究開発支援枠組み「ホライズン・ヨーロッパ」にも復興基金から一部が充当される。

独自財源の確保が中長期的課題

復興基金に必要な資金調達を行うために、欧州委の提案では、EU予算の独自財源の上限をEU全体の国民総所得(GNI)の2.00%まで一時的に引き上げる。金融市場で調達した7,500億ユーロは2028年以降、最大30年かけて償還される計画だ。欧州委は独自財源の確保のために排出権取引制度の見直しや、炭素国境調整メカニズムの2021年中の提案、デジタル課税など、従来の枠組みにとらわれない手法を開拓していくとしている。

欧州委のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は同日の欧州議会本会議で説明し、議会の理解を求めた。7月までに復興基金を含めた次期MFFの欧州理事会での合意を目指す。

(安田啓)

(EU)

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