新型コロナ対策を理由に新たな風力・太陽光発電の試運転を禁止

(メキシコ)

メキシコ発

2020年05月07日

国家エネルギー管理センター(CENACE)は5月1日、電力市場情報システム(SIM)で細則PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を公示し、新たな風力、太陽光発電所の国家電力系統(SEN)に接続した試運転を5月3日から禁止した。その目的は、新型コロナウイルス感染拡大に対処するための緊急事態下における電力供給の品質、信頼性、継続性、安全性を強化し、維持するためとしている。2019年以降の送配電網におけるトラブルを複数提示し、それには風力や太陽光など間欠性電源による発電が影響を与えたとし、緊急事態下における電力供給の安定のために、風力や太陽光による発電所が新規にSENに接続し、電力供給することを禁止する。また、系統電圧を安定化させるために「マストラン」電源(注)を特定地域で増やすとしている。なお、新型コロナウイルス対策としながらも、適用期限が定められていない。

同措置に対し、経済界からは強い反対の声が出ている。日本の経団連に相当する企業家調整評議会(CCE)は5月4日付でプレスリリースを出し、「CENACEは十分な技術的根拠も法的根拠もなく、SENの効率性と電力市場の自由競争を確保するという役割を放棄し、商業電力、工業電力の何千もの顧客に悪影響を与える」としている。CCEは、平等な競争、環境保護の観点から法的手段に訴えることを明らかにしている。また、メキシコ風力発電協会(AMDEE)のフリオ・バジェ会長によると、同細則により少なくとも20の民間風力発電プロジェクトが影響を受けるという(「レフォルマ」紙5月6日)。

CFEやPEMEXを救済する目的との批判も

今回の措置の背景には、2014年以降に進められた電力市場改革により、民間事業者との競争で劣位にある電力庁(CFE)を救済する目的だと指摘する声は多い。また、石油公社(PEMEX)の非近代的な製油所で発生する大量の重油の売り先を確保する目的があると指摘する声もある。米系法律事務所トンプソン&ナイトのメキシコ事務所エネルギー担当パートナーのクラウディオ・ロドリゲス氏は、PEMEXの製油所で1バレルの原油を処理すると26%の重油が精製されるが、昨今の国際的な環境規制で生産された重油の43%しか販売できず、貯蔵スペースに困っているという。CFEの重油発電所をマストラン電源として動かすことにより、重油の購入者を増やす狙いがあるとしている(「レフォルマ」紙5月6日)。

(注)熱容量超過防止や系統電圧を適正に維持するなど、電力の安定供給や品質維持のためなどの理由により常時運転する必要がある電源。

(中畑貴雄)

(メキシコ)

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