欧州委、グリーンとデジタルを両翼とする新産業政策を発表

(EU)

ブリュッセル発

2020年03月16日

欧州委員会は3月10日、「欧州新産業戦略PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)」をまとめたコミュニケーション(政策文書)を公表した。(1)欧州産業の競争力の維持、(2)「欧州グリーン・ディール(2019年12月12日記事参照)」が掲げる2050年までの気候中立の実現、そして(3)「欧州デジタル化」への対応、が3本柱に挙げられている。

まず、競争力維持のために欧州委は、EUの特徴である欧州単一市場を一層深化させる必要があるとし、同戦略と合わせて「﷟単一市場の障壁の特定および対処PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)」および「単一市場ルールのより良い実施と執行のための行動計画PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)」と題した2つのコミュニケーションを発表した。両文書では、EU法規制の複雑さ(EUレベルと加盟国レベルでの法規制の関係など)や、加盟国ごとの税制および行政手続きの差異など、単一市場の課題を洗い出すとともに、行動計画が定めるイニシアチブの一環として、加盟国および欧州委から構成される「単一市場実施タスクフォース」を新設して各種の課題に対処していくとしている。

グリーン、デジタル両課題へのスムーズな移行を促す

また欧州委は、先述の欧州新産業戦略において、諸外国の市場歪曲(わいきょく)的な補助金に対処し、公平な競争環境を実現すべく、2020年半ばまでに白書を取りまとめることを明らかにした。

気候変動およびデジタル化に関しては、「グリーンへの移行(Green Transition)」「デジタルへの移行(Digital Transition)」というキーワードを用いて、両課題への企業のスムーズな適応を促すための諸政策を挙げている。例えば、従来型エネルギー産業から、デジタル関連を含む新産業への移行や転換を促す仕組みが不可欠と指摘し、「公正な移行メカニズム」がその役割を担うと述べている。同メカニズムは1月14日に発表された「欧州グリーン・ディール投資計画」の一部をなす(2020年1月21日記事参照)もので、欧州新産業戦略では、化石燃料に依存する地域や産業に、移行に必要な技術的および助言的支援を提供するための「公正な移行プラットフォーム」の立ち上げなどの政策が含まれた。同戦略はまた、循環型経済の構築推進を通じて2030年までに域内の中小企業を中心に70万人の雇用を創出するとし、具体策としての「循環型経済行動計画」に言及した。そのほか、デジタル関連では、研究開発支援、教育・職業訓練の充実といった側面のみならず、外国投資スクリーニング(審査)の強化や、サイバーセキュリティー政策などを通じた「欧州の産業的および戦略的自律性の強化」が必要と指摘している。

ビジネスヨーロッパ(欧州産業連盟)は、欧州新産業戦略の発表に合わせて3月10日、「欧州がグリーンおよびデジタルへの転換を加速している中、世界のほかの地域ではアグレッシブな政策が採られ、一部の国がルールから外れた行動をとっている現状では、欧州は一層戦略的に行動しなければならない」など、包括的な戦略を後押しする声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した。

(安田啓)

(EU)

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