新型コロナウイルス、時計などスイスの主要産業への影響が懸念

(スイス)

ジュネーブ発

2020年02月13日

連邦内務省保険局の2月9日の情報外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、スイスでは新型コロナウイルスの疑いがある症例が確認されたが、いずれも陰性だった。発症例はまだないものの、スイスの主要産業への影響は注視する必要がある。

スイス時計協会によると、スイスの時計業にとって中国は香港、米国に次ぐ3番目に大きな市場だ。2000年に4,500万スイス・フラン(約50億8,500万円、1フラン=約113円)だった中国向けの輸出は、2019年には19億9,400万フランまで拡大している。中国市場は無視できない存在となっており、感染拡大による輸出や、中国人観光客がもたらす国内売り上げへの影響が懸念される。また、現地有力紙「ル・トン」(2月3日)などによると、スウォッチグループは同3日、来場者や出展者の安全を確保できない恐れがあるとして、3月4~6日にスイス・チューリヒで予定していたイベント「タイム・トゥ・ムーヴ」の開催を中止すると発表。このイベントは、世界最大の時計展示会「バーゼルワールド」への出展を2019年以来見送っている(2019年4月3日記事参照)同グループが、独自の新作発表イベントとして計画していたものだった。

観光業においては、2月3日付の「ル・トン」紙によると、2018年、スイスには全観光客の5%に当たる100万人超の中国人観光客が訪れ、1日当たりの消費金額は、他国の観光客の平均が180スイス・フランなのに対して、中国人観光客は380フランを費やし、経済的効果が大きい。また、1月27日付の現地有力紙「ラジュフィ」紙は、スイストラベルセンターのディレクターによる、スイスを訪れる中国人観光客数がピークとなる5月以降もこの状況が続く場合は旅行者減による経済的損失の可能性があるとする談話を紹介。連邦統計局の発表によれば、2018年に173万人にのぼった中国人観光客の3分の2以上が5月から10月にスイスを訪れている。今後数週間については、2018年の同時期の中国人観光客数から30~50%が減少する可能性があるとの観光当局の見方を報じた。

中国との往来に関しては、スイス航空が中国(本土)への往復運航について、北京、上海便を2月29日まで(南京、瀋陽、青島便は3月28日まで)停止すると発表している。関連会社のルフトハンザ航空、オーストリア航空も同様の措置を取る。

しかし、スイス経済に最も影響を与えるのは、新型コロナウイルスにより引き起こされるビジネス機会喪失ではなく、それに伴うスイス・フラン高だろう。新型コロナウイルスによる世界各国の景気減速を受けて、安全資産とされるスイス・フランは1月27日に過去33カ月で最高の1ユーロ当たり1.06フランを記録した。その後、続落したものの、今後のリスクによる為替変動が注目される。

(城倉ふみ、マリオ・マルケジニ)

(スイス)

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