雇用主は従業員の職業訓練に関する義務に留意、パリでセミナー

(フランス)

パリ発

2020年02月28日

ジェトロは、在フランス日系企業向けに「職業研修関連制度の概説と雇用主の義務」をテーマとしたセミナーを1月28日にパリで開催した。フィダル法律事務所の遠藤佳澄・労務関係担当マネジャーが、フランスにおける(1)職業研修関連制度、(2)職業訓練に関する雇用主の義務に関し、留意すべき事項を中心に解説した。

雇用主立案のプランに基づく職業訓練は、従業員の能力向上および従業員がポストに適応し雇用を維持できるようにすることを目的に、原則として就業時間内に行われる。就業時間外に実施される場合、従業員は受講を拒否できるが、正当な理由なく拒否すれば懲戒処分の対象となる。実施にかかる費用は、従業員50人以上の企業は雇用主が負担し、50人未満の場合は国が設置した研修制度の運営機関が負担する。

一方、従業員が自主的に受ける職業訓練については、従業員の「職業訓練個人口座制度(CPF)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を活用する。対象となる研修は、国が認定する職業証書目録、証書および資格特別目録に登録されている学位や資格を与える研修などで、運転免許証の取得も対象となる。CPFは従業員に対し、職業訓練の受講を可能にする「時間」を付与するものとして2015年に導入されたが、2019年の制度改正により「金額(受講料金)」を付与する制度に変更された。1年当たり500ユーロで、従業員が中等教育資格や職業適性証を有さない場合は800ユーロまで利用することができる。同利用可能額の残高を最大10年間蓄積することが可能。勤務時間内に受講する場合は雇用主の事前許可が必要だが、勤務時間外に受講の場合は通知義務がない。雇用主からCPFを使用した研修を提案することも可能だが、従業員の承諾が必要となる。実施にかかる費用は、CPFを対象とする基金を利用する。同基金の財源は、雇用主が従業員数に応じて毎年、研修費徴収機関のOPCO(2021年からは社会保障費の徴収機関URSSAF)に支払う研修負担金外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますだ。

このほかに、転職を目的とした長期にわたる研修休暇、キャリア向上または再転職を目的とする企業内実習を伴う研修もある。従業員が、自身の能力レベルを確認するためにCPFを使用して外部の専門家による能力評価外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを受けることも可能。雇用主も、自社の能力向上プランの一環として従業員の能力評価の実施が可能だが、実施には従業員の承諾が必要で、外部サービス事業者に委託する義務があり、委託費を負担する。また、経験から得たスキルや知識を資格として認証する研修もある。

雇用主が従業員の能力不足を理由に解雇する場合、研修を受けさせていないと不当解雇になる。7年間研修を行わなかったことで6,000ユーロの賠償金支払いを命じた判例もあることから、従業員に研修を行うよう提案する必要がある。また、従業員と原則2年ごとにキャリア面談を行い、従業員の仕事に対する将来の展望を聞き、今後実施する研修を検討する。また雇用主には、6年ごとにキャリア総括面談を実施し、従業員から研修受講状況や資格・学位の取得状況、昇給・昇格を享受したかを聞き取ってキャリアアップについて評価する義務があり、これを怠ると従業員50人以上の企業では3,000ユーロの罰金が科せられる場合がある。

(後藤尚美)

(フランス)

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