下院総選挙で与党が敗北、南北アイルランド統一のシン・フェインが躍進

(アイルランド)

ロンドン発

2020年02月12日

アイルランドで2月8日に実施された下院(定数160人、比例代表制)総選挙で、南北アイルランドの統一を党是に掲げる第3党のシン・フェインが、前回2016年総選挙を14議席上回る37議席を獲得して第2党となり、第1党の最大野党・共和党(フィアナ・フォイル)の38議席に肉薄した(表参照)。レオ・バラッカー首相率いる与党・統一アイルランド党(フィナ・ゲール)は35議席にとどまり、第3党に転落した。2大政党がいずれも議席を減らす波乱の結果となった。

表 2020年アイルランド総選挙の政党別獲得議席数

選挙をめぐっては、「アイリッシュ・タイムズ」紙が2月3日に発表した事前世論調査で、シン・フェインが統一アイルランド党の20%、共和党の23%を上回る25%の支持率を獲得するなど、多くの予想に反する同党の急伸に驚きが広がっていた。投票日深夜に公営放送RTEが発表した出口調査でも3党が、22%台でほぼ横並びになった。

争点となったのは、病院のベッド不足などの問題が生じている医療サービス、住居不足やそれに伴うホームレス対策、上昇する生活費の問題など。住宅建設への大規模な公共投資や家賃引き上げの凍結など、左派寄りの政策を掲げるシン・フェインが、政権与党の統一アイルランド党と同党に閣外協力する共和党に対する、国民の不満を取り込んだとみられる。緑の党も受け皿となり、10議席増と躍進した。

英国のEU離脱(ブレグジット)をめぐる、2019年10月の英EU交渉妥結に重要な役割を担い、そうした外交などの実績を背景に議会解散に踏み切ったバラッカー首相にとっては、思惑が外れる結果になった。対英関係では、シン・フェインのメアリー・ロウ・マクドナルド党首が2020年1月、2025年までに北アイルランドを含むアイルランド島全体で統一を問う国民投票を求めると発言しており、国民投票に慎重な統一アイルランド党、共和党と意見が対立している。

いずれの政党も過半数を割り込む中、連立に向けた水面下の協議が始まっている。共和党と統一アイルランド党はこれまで、シン・フェインが過去に南北アイルランドの統一を求めてテロ行為を繰り返したアイルランド共和国軍(IRA)の流れをくむことなどから、同党との連立は一貫して否定してきた。しかし選挙後は、共和党のマイケル・マーティン党首らが、シン・フェインとの連立に含みを持たせる発言をしたと報じられている。一方、マクドナルド党首は、左派連合を念頭に緑の党、労働党、社会民主党、連帯-利益の前の国民(SOL-PBP)への接触を開始した。ただこの場合、各党の議席を合わせても過半数に届かないため、政権運営は容易ではない。また、共和党、シン・フェイン、緑の党の3党連立の可能性なども報じられている。前回2016年の総選挙後は、連立政権発足まで2カ月半を要しており、今回も新政権発足まで時間がかかる可能性がある。

(木下裕之)

(アイルランド)

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