飢餓撲滅法案を国会で審議、10年以内に飢餓ゼロ目指す

(フィリピン)

マニラ発

2020年02月26日

フィリピン国内の飢餓を10年以内に撲滅することを政府に義務付ける法案「下院第5785号」が国会で審議されている。

この法案は第10条で、政府は法施行から2年半以内に飢餓率を施行時と比較して25%、5年以内にさらに25%減少させ、10年以内に国内から飢餓を撲滅することを政府の義務と規定する。

法案では、飢餓撲滅の手段として、国家予算に占める農業研究や灌漑、教育、テクノロジー、信用、地方開発の予算の比率を上昇させることや、地方の農地所有者に占める女性の割合上昇、無料の学校給食プロジェクトのカバー率上昇、飢餓に苦しむ人への社会給付事業予算比率の上昇などを挙げている。

法案は序文で、2018年時点で国内の240万世帯が意図しない飢餓に苦しんでいるとし、フィリピンの平均的な世帯収入の家計に占める食費の割合は約50%に上り、1日3回の食事を確保することにも必死だとし、最低限の食の確保は国の義務として法案成立の必要性をうたっている。

フィリピン統計庁(PSA)によると、2018年時点のフィリピンの貧困率(注)が16.6%と、2015年時点の23.3%から約6.7ポイント減少したとされる。また、国家経済開発庁(NEDA)は1月13日、14%としていた2022年時点の貧困率の目標を11%に変更すると発表している。

そうした政府の統計や目標とは裏腹にフィリピン国民の足元の生活実態は必ずしも改善されているとは言い難い。フィリピンの調査会社ソーシャル・ウェザー・ステーション(SWS)が2019年12月に発表した調査結果によると、自身を貧困層と考える世帯数の割合が54%となり、約5年ぶりの高水準となった。1980年代以降近隣のASEAN諸国が大きく経済成長を実現するなか長らく低成長を続け「アジアの病人」と揶揄された時代からようやく脱却し、2012年以降2018年まで7年連続の6%以上の経済成長を続けたフィリピン。ただし多くの国民はそうした急速な経済成長の恩恵にあずからず貧困状態から抜け出せず、所得格差は依然としてASEAN諸国で最高水準とされる。経済成長や税制改革に伴う急速なインフレで物価水準が上昇するなか最低限必要な世帯収入さえ得られない人口が増加することは低中所得国から高中所得国への移行を目指すフィリピン経済の足枷となるだけではなく、政治不安や治安の悪化などかつてアジアの病人と揶揄された時代への逆行の可能性も懸念せざるをえなくなる。

(注)食料や医療、教育、住居の確保に最低限必要な世帯収入を得ていない人口の割合。統計作成時点の物価やインフレの状況によって当該世帯収入は変わり、2018年の統計では1カ月の1世帯当たりの収入は1万727ペソ(約2万3,599円、1ペソ=約2.2円)とされた。

(坂田和仁)

(フィリピン)

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