6月の総選挙を前に社会保険料引き上げ凍結、年金担保ローン債務帳消しなどの動き

(モンゴル)

北京発

2020年02月21日

モンゴルで6月24日に行われる総選挙を控え、社会保険料の引き上げ凍結や年金担保ローン(注1)債務の帳消しといった、財政・経済運営に大きな影響を与える動きが相次いでいる。

2020年度予算法とその関連法が2019年11月13日に成立し、1月1日から社会保険料の雇用者負担と本人負担をそれぞれ1%ずつ引き上げるとしていた。2017年にモンゴルがIMFのEFF(拡大信用供与措置、注2)の適用を受ける際の約束(注3)に従ったものだ。しかし、2019年4月に経営破綻したカピタル銀行に預けられていた社会保険基金1,040億トゥグルク(約41億6,000万円、1トゥグルク=約0.04円)が回収不能になっていることが11月に報じられると、社会保険料引き上げに反対する世論が高まった。こうした状況を踏まえ、バトトルガ大統領は12月3日に2020年度予算法の社会保険料引き上げに拒否権を発動した。国会もこれを受け入れて12月20日に予算法の修正案を可決し、社会保険料は据え置きとなった。

バトトルガ大統領は12月31日の年越しのあいさつで、「年金を担保としたローンの債務負担に苦しむ高齢者のため、サルヒト銀山(注4)から得られる政府収益を財源として、債務を帳消しにすることを国家安全保障評議会(注5)で決定した」と発表した。

フレルバータル蔵相は、2020年度予算に計上していないなどの理由から、この決定に反対していたが、モンゴル政府は1月6日の閣議で、サルヒト銀山から得られる将来の政府収益を担保に国債を発行して財源を調達し、年金を担保としたローンの債務を1人当たり最大600万トゥグルクまで帳消しにする法案を国会に緊急議題として提出し、国会は1月10日に80%以上の賛成で可決した。

これを受けて同日、IMFのモンゴル担当ワーキンググループの責任者ゴットリーブ氏は記者会見を開き、「この決定は2017年にモンゴル政府がIMFと合意したEFFに違反する」と反対の立場を表明するとともに、政府・与党の措置は「対外債務のGDP比を2%増加させ、インフレとトゥグルク安を招く」と警告した。

国民の間には、債務が多い人ほど有利になる今回の措置に対してモラルハザードを危惧する声や不公平感が広がっている。また、債務帳消しは6の国会総選挙用の対策であり、高齢者の貧困問題の根本的解決にはならないとの指摘もある。

(注1)年金を担保に商業銀行が貸し出すローン。平均金利が年16.9%とほかの消費者ローンより低く、借り入れが容易なため、貧困層は借金の連鎖に陥りやすい状況にあるとされている。

(注2)拡大信用供与措置とは、2017年5月24日にIMF理事会が承認した3年間のプログラム。IMFが総額3億1,450万4,000SDR(特別引き出し権、約4億2,942万ドル相当)をモンゴルに融資することに合意した。

(注3)IMFとの合意を受けて、モンゴル政府は社会保険料の引き上げを決定し、既に2018年、2019年には段階的な引き上げを実施した。

(注4)2018年末に政府が違法操業を理由に中国企業から接収した。現在は国営企業エルデネス・モンゴルの子会社エルデネス・シルバー・リソースの管理下にある。

(注5)国家安全保障評議会は、大統領、国会議長、首相、事務局と評議員(国会副議長、国会安全保障・外交政策委員長、国会内政党会派の代表ら)で構成する機関。

(藤井一範)

(モンゴル)

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