新型コロナウイルスの影響、株価下落も輸出実態へは当面軽微

(ブラジル)

サンパウロ発

2020年02月14日

新型コロナウイルス感染拡大を受け、ブラジルの主要輸出産品への影響が懸念されている。ブラジルにとって中国は最大の輸出相手国で、主な輸出品目には鉄鉱石や大豆といった一次産品が多い。これらを生産する大手国内企業の株価は軒並み値下がりしている。

ブラジル資源開発大手ヴァーレ、石油公社ペトロブラス、製紙大手スザノ、食肉大手のJBS、BRFといった輸出関連企業の株価は、世界保健機関(WHO)による非常事態宣言が出た1月31日は、WHO緊急会合開催前の1月22日と比較して、ヴァーレ10.7%減、ペトロブラス2.9%減、スザノ11.5%減、JBS8.2%減、BRF14.2%減。直近の2月7日にはヴァーレ7.5%減、ペトロブラス1.2%減、スザノ16.1%減、JBS14.6%減、BRF11.4%減となった。

ブラジル経済省によると、2019年の輸出相手国第1位(金額ベース)の中国への輸出割合は全体の28%で、2位の米国(13%)の倍以上、3位で欧州物流の玄関口であるオランダ向け(5%)の6倍弱となる。

ブラジル輸出協会(AEB)のカストロ会長は、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、AEB会員企業は輸出市場における新たなシナリオへの対応を余儀なくされているとコメントした。懸念は国際市況と中国需要の低下だが、双方とも低下する場合のブラジル輸出企業への影響は大きいとの見方を示している。

輸出への影響、足元では限定的

このように株価は下落しているが、実際の輸出取引は中長期的な取引契約に基づくものが多く、新型コロナウイルスが要因で現時点の輸出が落ち込んでいる状況にはなさそうだ。

ブラジル大豆生産者協会(Aprosoja)のバルトロメル・ブラス・ペレイラ会長は「大豆の中国向け輸出はブラジルの大豆輸出全体の約8割を占めており、2020年は輸出減少を見込んでいる」と述べた。一方で、「輸出減少は中国国内で広がるASF(アフリカ豚熱)の影響で豚飼料需要が減っていることによるもので、Aprosoja会員企業の7割以上は半年先まで輸出契約は完了している」とも述べており、「半年先以降の取引では世界的な株価下落が大豆の国際市況に影響する可能性」への懸念を示しつつも、「新型コロナウイルスによる当面の収益への影響はほとんどない」との見解を示している。

ペトロブラスのホベルト・カステロ・ブランコ総裁は「国際石油価格は下落したものの、現時点で自社の石油輸出量や販売には影響はない」と語っている。ただ、同社の中国向け輸出は輸出全体の7割以上に達していることから、今後は新規市場開拓を目指し、EU市場に注力する、との報道もある。

ヴァーレは、営業純利益の4割強が中国向け鉄鉱石輸出によるものだが、同社は「中国向け輸出は通常どおりで新型コロナウイルスの影響について判断するのは時期尚早」としている(「グローボ」紙2月2日)。

食肉分野では、むしろブラジル産食肉の需要増加が見込まれる。中国内で広がるASF(アフリカ豚熱)により豚肉の供給量が不足しているほか、2月初旬に中国湖南省で発生したH5N1型鳥インフルエンザで鶏肉の供給不足が予想されているからだ。ブラジル動物タンパク協会(ABPA)によると、1月の豚肉輸出は前年同期比で輸出量41%、輸出額で78.9%増加した。食肉業界では「中国市場でのブラジル産食肉需要が今後どうなるか見極める必要がある」としている。

(大久保敦)

(ブラジル)

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