スイス国民投票、低額な住宅供給促進の発議が否決、性的指向差別禁止のレファレンダムは可決
(スイス)
ジュネーブ発
2020年02月27日
スイスで2月9日に行われた国民投票では、「より低家賃の住宅に関するイニシアチブ(国民発議)」が57.1%の反対で否決され、「性的指向を理由とした差別の禁止に関するレファレンダム(連邦議会で承認された法律の是非を問う制度)」が63.1%の賛成で可決された。
「より低家賃の住宅に関するイニシアチブ」は、手頃な賃料の住宅の供給数を増やすため、新規の住宅建設において、低家賃の公営住宅建設を最低10%確保することを求め、借家人の保護を目的とした団体「ASLOCA」などが中心となって提議した。ASCOLAは、投資家による過剰な不動産投資が原因で、特に大都市において住宅費が高騰し、住宅不足が起きていることを批判していた。一方で政府は、住宅事情は地域によって大きく異なるため本イニシアチブで妥当な解決策を見いだすのは難しく、行き過ぎた規制は建設投資を妨げる可能性があるとして、国民に反対票を投じるよう求めていた。
投票結果には、地域による住宅の逼迫状況や市場の性格の違いが顕著に表れた。人口が集中し、家賃が高騰している都市部においては、州単位では反対であっても市単位では賛成した地域が複数あった。例えば、チューリヒ州では賛成が46.5%だったもののチューリッヒ市では62.9%と過半数の賛成票が投じられ、同様にベルン州でも賛成が41.7%だったがベルン市では賛成が65.0%に上った。ジュネーブについては、州単位でも賛成が60.1%と半数を超え、ジュネーブ市での賛成票の割合は68.4%に達した。
投票では、全有権者の42.9%、26州・準州のうち4州・1準州が賛成したが、いずれも過半数に届かず否決された。
「性的指向を理由とした差別の禁止に関するレファレンダム」は、刑法における差別禁止条項の範囲を拡大し、性的指向(同性愛、両性愛、異性愛)を理由とした、公衆での言論による差別を刑事罰の対象に加える法改正への是非を問うものだった。この条項はもともと人種、民族、宗教による差別を禁止するために制定されたが、2018年、議会はこの法律に性的指向による差別も含めることを決定した。これに対し、法改正は言論の自由を奪う可能性があるとして、国民党や急進自由党などの一部党員などからなる反対派がレファレンダムを起こしていた。
国民投票では、投票者の過半数の63.1%が法改正に賛成したため、改正法は今後施行され、性的指向を理由とした差別に対して最長3年の禁固刑または罰金が科されることになる。
(城倉ふみ、マリオ・マルケジニ)
(スイス)
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