「ガラパゴス市場」からの脱却に向けて、現地企業に聞く

(インドネシア)

ジャカルタ発

2020年01月23日

日本の経済産業省が行った「中小企業・小規模事業者のIT利用の状況および課題についてPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)」(2017年)によると、日本の中小企業では6割弱の会社がITを活用しているが、そのうち3分の2が給与や経理業務の内部管理業務向けに導入している。収益に直結する、調達、販売、受発注管理などでは、3分の1程度にとどまる。在インドネシア日系製造業向けにERP(在庫管理、生産管理などの統合基幹業務システム)などの製造・販売を行うバッテラハイシステム(PT BAHTERA HISISTEM INDONESIA外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)に、事業内容や販路拡大の取り組みなどについてヒアリングを行った(1月14日)。

(問)会社概要と提供しているサービスは。

(答)業務システムの開発・導入を行うインドネシア内資企業。顧客は現状、全てインドネシアに進出している日系製造業。他社の生産現場の工程計画を立案するシステム(生産スケジューラ)の販売代理店である一方、自社でERPを開発し販売している。生産スケジューラを使いこなすには、在庫管理を適切に行っていることが大前提。在庫管理はERPを導入することで効率化できる部分もあるが、既存のERPはパッケージとして販売されていることが多く、自社でカスタマイズして使うことが難しく、導入しても結局、使いこなせない企業も多い。当社製品はテンプレートを用意し、顧客の使いやすさを最優先にした仕様になっている。

(問)中小の製造業がIT分野に投資をする難しさはどこか。

(答)コストがボトルネックとなっている。例えば、製造ラインにロボットを設置する場合、コストメリットを説明するのは難しくない。一方、ERPなどの業務システムは、導入に当たってのコストも比較的高く、メリットを定量的に説明することが難しい。現地日系企業にとっては、日本の本社に導入メリットを説明できず、結局、導入が見送られてしまう。

(問)ビジネスを行う上で抱えている課題は。

(答)IT人材の確保には苦労している。インドネシアの若者にとってIT業界は人気だが、当社の場合は、ITの知識だけでなく、製造業の現場を知る必要がある。日々、工業団地に通い、日系製造業と議論し、システムの実装を行う泥臭い仕事ゆえ、若い人材をつなぎとめるのに苦労している。また、業務システムの開発・販売を行う企業は競争が厳しく、さらには、モノのインターネット(IoT)を活用した自動化システムなども開発されてきている。顧客に寄り添い、使い勝手の良いサービスを提供し続けていくことが重要と考えている。

(問)日系製造業だけでなく、ローカル企業への販売は検討しているか。

(答)必要性は感じている。一方で、ローカル企業に販売することになれば、競合は日系企業だけでなくなる上に、ローカル企業は検品や価格に非常に厳しく、簡単な道のりではない。インドネシアだけでないが、日系企業が多く集積すると、その国は「日系ガラパゴス市場」になってしまう。日本の特殊な商慣習や日本語という言葉の壁で守られ、ローカル企業や外国企業の参入が難しいため、日系企業間のみでビジネスが完結してしまう。最近はローカル企業なども技術力を上げ、「ガラパゴス市場」へ参入している(注)。よって、この市場がいつまでも守られている保証はなく、日系企業向けだけのビジネスモデルからの脱却を検討する必要性は感じている。

写真 バッテラハイシステムの山本啓二アドバイザー(ジェトロ撮影)

バッテラハイシステムの山本啓二アドバイザー(ジェトロ撮影)

(注)「2019年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査PDFファイル(0.0B)」によると、在インドネシアの日系企業が抱える経営上の問題点として「原材料・部品の現地調達の難しさ」が挙げられている。一方で、過去の調査と比較すると、現地調達率は徐々に上昇している。

(上野渉)

(インドネシア)

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