トランプ米大統領、インフラ事業の環境影響評価手続き簡素化の方針発表

(米国)

ニューヨーク発

2020年01月15日

トランプ米国大統領は1月9日、公共事業で必要とされている環境影響評価手続きを簡素化する方針を発表した。道路や橋、空港などのインフラ建設の効率化、迅速化が期待されるため、産業界からは歓迎の声が上がる一方、環境団体や地域社会からは反発が出ている。

トランプ大統領が改正を目指すのは、1970年にニクソン大統領によって制定された「国家環境政策法(National Environmental Policy Act)」の実施規則だ。同法に基づき、連邦政府は主要な公共事業を行う前に、事業が環境に与える影響を調査することが義務付けられている。トランプ大統領は9日の記者会見で、この義務によって公共事業に不要な時間とコストが課せられていると批判し、「主要事業の許認可に要する期間を2年以内に短縮する」と表明した。

1月10日に公示された官報外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、実施規則の改正案には、公共事業に要する環境影響評価手続きを2年以内に完了するという目標を設定した上で、現在の義務手続きの多くを規制当局の裁量で任意手続きにする変更などが盛り込まれている。また、環境への影響の懸念がないとして評価手続きを省略できる「例外カテゴリー」の利用基準を明確にする条項が追加され、利用の拡大を促している。国家環境政策法を所管する環境諮問委員会(CEQ)は、3月10日までパブリックコメント(注)を受け付けるとともに、2月に公聴会を予定しており、改正案はそれを経て確定となる。

CEQの報告書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)によると、2010~2017年に行われた1,000件を超える環境影響評価では、評価開始から終了までの平均期間は約4年半となっており、10年超の案件も76件報告されている。運輸省の案件では、航空と高速道路をそれぞれ所管する連邦航空局(FAA)と連邦高速道路局(FHWA)はともに評価完了までに平均7年以上を要していることから、これが2年以内に短縮されれば、インフラ事業の効率化が期待される。

全米製造業者協会(NAM)のジェイ・ティモンズ会長兼最高経営責任者(CEO)は1月9日、今回の改正を称賛する声明を発表し、「企業の努力は、山積みの書類手続きと終わりのない遅延に費やさずに、米国民が切望するインフラ建設に注がれるべき」と述べた。他方、気候変動への影響を懸念する環境団体からは批判が出ており、天然資源保護協議会(NRDC)は公共事業の遅延の原因は環境影響評価のせいではなく資金不足によるものだと反論し、トランプ大統領が方針を取り下げるべく徹底抗戦する意向を表明している。ノートルダム大学のブルース・フーバー教授は「今回の改正案は(国家環境政策)法の執行方法を変えるもので、その変更が法の趣旨に反していないかは連邦裁判所の判断に委ねられる」と述べており、改正の是非は裁判で争われる可能性がある(「ワシントン・ポスト」紙電子版1月10日)。

(注)米連邦政府のポータルサイトregulations.govのドケット番号は、CEQ-2019-0003となる。

(藪恭兵)

(米国)

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