政府諮問機関、EV化推進による雇用消失リスクと対応策を提言

(ドイツ)

デュッセルドルフ発

2020年01月27日

ドイツ連邦政府主導の専門者会議「国家プラットフォーム 未来のモビリティー(NPM)」(注)は1月13日、「モビリティー分野における戦略的人材計画および人材開発」に関する中間報告を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。同会議を構成するワーキンググループ(WG)の1つである「モビリティーおよび生産の拠点としての競争力としての保持、蓄電池生産、資源確保およびリサイクリング、人材開発」(WG4)がまとめたもの。自動車の電動化が加速し、自動車生産プロセスにおける自動化がますます普及することが予想されることから、WG4は、既存の2つの電気自動車(EV)の普及度合いの予測調査をベースに、国内の就業構造への影響の試算結果を発表した。

フラウンホーファー労働経済・組織研究所(IAO)による調査を基に、2030年にドイツで生産される自動車のうち、EVが30%、プラグインハイブリッドが15%を占めると仮定したシナリオでは、パワートレインの製造部門を中心に、2017年比で7万9,000人~8万8,000人の雇用減少が見込まれる。一方、ドイツ労働市場・職業研究所(IAB)の調査をベースに、2030年のドイツにおけるEVの登録台数を1,000万台とし、EVとその部品の多くを輸入に依存すると仮定するシナリオでは、2030年にEVが十分に普及せず、現在想定される経済情勢が続いた場合と比べ、ドイツ全体で最大41万人の雇用が減少すると予想している。

同発表に対する国内での反応はさまざまだ。ドイツ自動車産業連合会(VDA)は、2017年比で7万9,000人~8万8,000人の雇用減少を見込む1つ目のシナリオは妥当との見方を示す一方、41万人の雇用が消失するという2つ目の調査結果を「非現実的なアプローチ」とのコメントを同日に発表した。理由として、ドイツ国内で既に幾つかのEVの生産拠点が存在するほか、ほかのEVや蓄電池に関する新たな生産拠点の計画が進行しており、それが考慮されていないことなどを挙げている。

EVのさらなる導入は雇用消失のみならず、特に仕事の質や内容にも大きな影響が予想されることから、同報告では、自動車産業における新たな職業訓練制度や資格の導入についての必要性も指摘している。WG4は対策として、連邦雇用庁や各地域の再教育・訓練施設、企業が協力してニーズに沿った再教育や訓練のための支援策を立案し提供するため、中心的な役割を果たす地域ネットワーク「コンピテンス・ハブ」を各地域に設立することを提案している。自動車産業が直面している課題は、各企業が単独で解決できるものではなく、政府や企業、教育機関がより協力し合うべきで、再教育・訓練制度は中小・中堅企業の状況に配慮したものであるべきと指摘している。

(注)政府や民間セクター、産業団体、労働組合、研究機関、非政府組織などの専門家により構成される。持続可能で環境や気候に優しく、競争力のあるモビリティー社会の実現のため、政府に対する政策提言などを行う。議長は、ドイツ技術科学アカデミー(acatech)のヘニング・カガーマン教授。

(ベアナデット・マイヤー、森悠介)

(ドイツ)

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