プーチン大統領の年次教書演説、大統領権限の議会への一部移譲を提案

(ロシア)

モスクワ発

2020年01月16日

ロシアのプーチン大統領は1月15日、クレムリンに隣接する展示場「マネージ」で年次教書演説を行った。人口対策や保健、教育環境の整備、社会構造や産業分野の変更に対応した雇用環境の改善など、社会政策の拡充に多くの時間を割いたほか、大統領の権限を一部、議会に移譲するなど、統治機構の構造改変にも踏み込んだ。他方で、安全保障や国際関係については極めて短い言及となった。

演説の冒頭、プーチン大統領は「社会は変化を求めている」と強調。国民がはっきりと変化を感じられるように、スピード感を持って社会的諸課題の解決に取り組む姿勢を示した。危機感の背景にあるのは、出生率の低下に伴う人口減少と、それによる総合的な国力の低下だ。

その解決策として、若い家族や母子家庭などに対する支援策を拡充し、出生率の向上を図る。具体的には、地方における保育所の拡充(2021年末までに22万5,000人の受け入れ児童数増加)、低所得家庭向けの各種手当申請手続きの改善、養育手当(注)の受給期間の延長と受給額の引き上げ〔現行から15万ルーブル増の61万6,617ルーブル(約110万円、1ルーブル=約1.8円)〕などを提案した。

経済面では、財政黒字や対外債務を上回る外貨準備、インフレ率の低下などを例示し、ロシア経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の強化と政府・中央銀行の施策に対する自信を示した。また、経済構造の改革を進め、投資を呼び込まなければならないと強調。投資促進のために、a.投資保護・奨励策の迅速な策定、b.行政当局による事業者への検査緩和を2020年中に完了させること、c.経済犯罪に関する刑法規程の一部緩和、d.国家福祉基金による道路などインフラ整備、e.長期融資の拡充、が必要だと訴えた。

科学分野では、引き続きスタートアップ支援とイノベーションの発展強化に注力すると述べた。若手技術者の育成、技術開発関連の法整備が必要とし、政府やベンチャーファンド経由での融資による産業育成を進める考えを示した。また、国内での技術開発を後押しするため、ロシアにおける公的プロジェクトには国産ソフトを活用するべきだとの考えも示した。

演説の終盤、プーチン大統領は憲法について言及した。同大統領は「1993年に制定された憲法の『人権と国民の自由の原則』は今後数十年、憲法の基礎となり続けるもの」として、根本にある理念を維持するとの考えを示した。また、大統領の権限の一部を議会に移譲する方向での、憲法および関連法令の修正について踏み込んだ発言を行った。

プーチン大統領は「議会はより大きな政治的責任を負う準備ができている」とし、組閣において議会が首相や閣僚を指名し、大統領はそれを承認する方式を提案した。また、国防・治安関連省庁は、引き続き大統領直属となるものの、その長の指名は上院との協議を経て行うことも提案した。

(注)直訳では「母親基金」。2人目以上の子供を出産した家庭に対して支給される一時金。2007年に導入。

(梅津哲也)

(ロシア)

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