中国所長セミナー、「注目される新興ECサービスとモビリティビジネス」

(中国)

中国北アジア課

2019年12月19日

ジェトロは12月5日、セミナー「現地所長が語る中国から見た米中貿易摩擦」を東京都内で開催した。ジェトロの上海と広州の両事務所長の講演内容は以下のとおり。

ジェトロ上海事務所の小栗道明所長は、「華東地域の最新ビジネス動向」として、上海をはじめとした中国の消費市場について講演した。

上海市で、過去1年間に「外食」「文化娯楽活動」「旅行」をした上海市民(18~70歳)は8割を超え、東京都民の消費動向に似ている。また、ネット配信(映画・音楽)、オンライン教育、オンライン小説など新興電子商取引(EC)サービス関連の消費が増えているほか、ジム・スポーツ、マッサージといった「コト消費」も増えている。

上海市には、国際的なブランドの初出店が相次いでいる。2019年第3四半期(7~9月)に上海市に出店した海外ブランドの店舗数は、前年同期比74.6%増の756店舗となった。極楽湯(2011年)、一風堂(2012年)、小樽洋菓子舗ルタオ(2018年)などの日系企業も、上海市に中国本土1号店をオープンして以降、店舗数を拡大している。

中国の消費市場の最近の動きとして、3級都市以下の消費市場を指す「下沈市場」に注目が集まっている。下沈市場の人口は約6億7,000万人、平均月収は5,000元(約7万5,000円、1元=約15円)以下で、1日当たりのネット利用時間は都市部と同程度に長く、18歳以下の未成年者のスマホの利用率は、むしろ都市部よりも高い傾向にある。都市レベル別ネットユーザーの構成比をみると、下沈市場が含まれる3級、4級都市の割合が拡大している。下沈市場には「顔なじみ社会」を重視し、「価格感度が高い」「娯楽・暇つぶしを好む」といった特徴があり、下沈市場をターゲットにビジネス展開する場合、ネットアイドルを活用するよりも、SNSのコミュニティ(朋友圏)を通じてPRしていくことが効果的だ。

写真 ジェトロ上海事務所の小栗道明所長による講演の様子(ジェトロ撮影)

ジェトロ上海事務所の小栗道明所長による講演の様子(ジェトロ撮影)

ジェトロ広州事務所の清水顕司所長は、「華南地域の最新ビジネス動向」と題して、特に最新の自動車市場の動向について解説した。

中国の自動車販売台数は2018年7月以降、前年同月比マイナスの状況が続いているが、日系自動車メーカーの販売台数は増加し、シェアが拡大している。2019年1~5月の日系自動車メーカーの乗用車販売台数は、前年同期比4.0%増の178万6,000台で、全体に占めるシェアは21.3%に達する。日系自動車部品メーカーも関連投資を続けているが、広州市周辺で土地を確保するのが困難なため、湖南省や湖北省に進出する企業が増えている。

中国市場で日系自動車が売れている理由として、(1)日系メーカーの生産体制が整ったこと、(2)販売拠点が増えていること、(3)中国の厳しい環境規制に対応できている車種が多いこと、(4)中古車市場でのリセールバリューが高いことが挙げられる。

中国では、新エネルギー車の生産・販売が急速に増えている。2018年には前年比59.9%増の127万台が生産され、世界で生産されている台数の約6割を占める。しかし、2019年の販売台数は減少傾向にあり、7~9月期は前年割れとなった。中国政府が新エネルギー車向けの補助金支給基準を段階的に引き上げたことが影響しているとみられる。

電気自動車(EV)の生産には多くのベンチャー企業が参入しているが、経営が厳しくなっている企業もある。上海蔚来汽車(NIO)は創業以来、赤字が続き、販売台数の不振などから従業員を2割減らす計画を打ち出している。

自動車ビジネスは、モビリティビジネスの時代に突入しており、アリババ、百度(Baidu)といった自動車以外の業界の企業が参入し始めている。北京市、上海市、深セン市などに各種ベンチャー企業が集積しており、自動車業界は今後、オープンイノベーションを加速させていくことが予想される。

写真 ジェトロ広州事務所の清水顕司所長による講演の様子(ジェトロ撮影)

ジェトロ広州事務所の清水顕司所長による講演の様子(ジェトロ撮影)

(方越)

(中国)

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