ボルソナーロ政権下で土地侵入・占拠活動が沈静化

(ブラジル)

サンパウロ発

2019年12月25日

1980年代から社会問題となっていた土地なし農民運動(MST)による土地侵入・占拠活動が沈静化してきた。

ジャイール・ボルソナーロ大統領は12月11日、自身のツイッタ―で、2019年の土地侵入件数は5件にとどまったとして、過去の政権と比較して減少したことを公表(表参照)。国家は民間所有地を保護しなければならないと強調した。

表  過去の土地不法侵入および占拠件数

MSTは、1970年代に未開拓地を対象に大規模機械化農業を推進する軍事政権の農地改革などに反対した国民が土地の再分配を求めて公有地へ侵入し占拠し始めたものだ。1988年に改定されたブラジル憲法第186条では、農地の社会的役割について、(1)合理的かつ適切な利用、(2)利用可能な天然資源の適切な利用と環境保全、(3)所有者と労働者の福祉に役立つ開発などを定めている。MSTは、生産活動に使用されていない土地の占拠は合法だと主張、侵入・占拠活動が広がっていった。

2003年に誕生した左派のイナシオ・ルーラ・ダ・シルバ政権では、MSTも政権支持母体となっていたため、土地所有権の分配が進み、農地を求めて土地侵入・占拠を行うMST会員の割合が低下した。最近ではMST加入45万世帯のうち、他者が所有する土地を占拠する世帯は全体の2割程度と報道されている。

MST会員の中には、零細農家として農業に従事する家族もいれば、組織化して農業ビジネス拡大に成功したグループもある。また、組合化して自身で経営を行い、市場や大手小売りへの販売に加え、輸出を行う組合もある。MST会員は穀物や果実、野菜、牛乳、ブドウジュース、コメなどを生産している。

一方、既に農地を所有しているにもかかわらず民間用地を占拠する行為や、政治目的で土地占拠や略奪を行う行為も後を絶たず社会問題化していた。

2019年1月にはMSTに反対するボルソナーロ政権が誕生し、軍が介入して不法に占拠された農地の差し押さえを可能にする法案の国会提出も政権は示唆している。

政権の動きを警戒するMSTは侵入・占拠行為を避け、農業ビジネスに注力していると言われている。また、国内各州で行われた直近のMSTの大会では、アマゾン森林伐採への内外の批判を踏まえて植林や果実を植える活動なども行っている。

(大久保敦)

(ブラジル)

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