社会的格差を生まないグローバル化を、WTO前事務局長が講演

(インドネシア、世界)

ジャカルタ発

2019年12月17日

WTOの前事務局長パスカル・ラミー氏は12月9日、インドネシア戦略国際問題研究所(CSIS)のセミナーで講演し、米中貿易摩擦や英国のEU離脱について、グローバリゼーションの影響を十分に管理できなかったことが背景にあるとし、各国で社会保障を拡充することが重要だとの見方を示した。他方、米国が2国間の貿易関係を重視する姿勢を打ち出していることについて、大きな挑戦だとした。

ラミー氏は、これまで起こってきたグローバリゼーションには、国際的な交通・物流網の整備によるモノ、ヒト、データなどの移動コストの低減と、貿易面などでの規制撤廃の2つの側面があると解説した。その上で、米中貿易摩擦などを念頭に、脱グローバリゼーションが起こり得るか、という点について、「交通・物流など相互接続された経済インフラを断ち切るのには非常に大きなコストを伴うことから、考えにくい」とする一方、世界的に広がった資本主義経済の便益について「勝者の数より敗者の数の方がはるかに多いことが課題だ」と述べ、むしろ格差是正のための社会保障システムの重要性が増しているという見解を示した。

同氏によると、米国が対中貿易赤字をはじめとする、各国との2国間の貿易収支を再調整する動きを見せているが、これは現在の自由貿易システムへの大きな挑戦と考えられる。経済的に大きなコストを伴う保護主義政策に傾倒するよりも、グローバリゼーションを推進しつつ、より社会的弱者や環境に優しい発展形態に移行することが合理的だと結論付けた。

写真 講演するWTOの前事務局長パスカル・ラミー氏(ジェトロ撮影)

講演するWTOの前事務局長パスカル・ラミー氏(ジェトロ撮影)

(山城武伸)

(インドネシア、世界)

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