中国所長セミナー、「米中貿易摩擦を受けて進む、中国国内の改革」

(中国)

中国北アジア課

2019年12月18日

ジェトロは12月5日、東京で「現地所長が語る 中国から見た米中貿易摩擦」セミナーを開催した。セミナーでは、ジェトロの北京、上海、広州事務所の各所長が、米中貿易摩擦の影響や現地の最新ビジネス動向について講演するとともに、森・濱田松本法律事務所上海オフィス首席代表・弁護士の石本茂彦氏が、中国の最新外資政策について解説した。

セミナーの冒頭で、ジェトロ北京事務所の堂ノ上武夫所長は、「米中貿易摩擦と中国政府の対応」と題する講演を行った。

2020年のGDP成長率6.0%達成が重要課題

2019年7~9月の中国の実質GDP成長率は6.0%にまで落ち込んだ。中国経済は下振れ圧力に直面しており、消費や投資の伸びも減速している。中国は「量」より「質」を重視した成長へ転換するための構造改革を進めているが、最近の急激な減速は、構造改革という長期的要因だけでは説明がつかない。また、「2020年は、2010年比でGDP倍増するという目標が設定された重要な節目の年であることから、政府はインフラ投資の拡大などを進め、2020年の実質GDP成長率6%は死守すべきだ」とする経済学者の指摘が、中国国内で注目されている。

中国政府は、道路や地下鉄などのインフラ建設の拡大を推進するとともに、ナイトエコノミー(夜間経済)やシルバーエコノミーなど、拡大余地がある分野での消費振興策を行っている。

また、中国の景気の方向性を示す製造業PMI(購買担当者景気指数)をみると、2019年11月に7カ月ぶりに50を上回った点は興味深い。3~4月にみられた一時的な回復ではなく、今後も継続的に50以上を維持できるかどうかが問題だ。

写真 ジェトロ北京事務所の堂ノ上武夫所長による講演の様子(ジェトロ撮影)

ジェトロ北京事務所の堂ノ上武夫所長による講演の様子(ジェトロ撮影)

米中貿易摩擦を受け、進む中国国内の改革

米中貿易摩擦を受け、在中国日系企業の事業拡大意欲が低下している。ジェトロで実施した「2019年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」によると、中国進出日系企業に「今後1~2年の事業展開の方向性」について聞いたところ、「拡大」と回答した企業の割合は43.2%に低下した。ただし、「縮小」と「第三国(地域)へ移転・撤退」とした企業の割合は必ずしも増加しておらず、5割の企業が「現状維持」と回答した。事業移転も容易ではないことから、当面は対策を決めかねており、「しばらくは様子を見るしかない」という日系企業の状況が表れている。日系企業の間では、中国の国内市場に立脚したビジネスや「地産地消」を重視する傾向が強まっている。

中国は2018年7月から、米国に対抗する追加関税賦課を4段階にわたって実施してきた一方、米国から要求された「市場開放」については、各方面で国内の対外開放の拡大を進めている。その1つである「外商投資法」は2020年1月に施行予定で、外資系企業に不利とされてきたライセンス規制の緩和などが盛り込まれている。外資企業の投資を制限・禁止する分野を示した「外商投資ネガティブリスト」についても、2019年に制限事項が48項目から40項目へと削減された。

また、2019年9月に発効した「日中社会保障協定」により、日中両国での年金保険料の二重払いが不要となったことで、中国進出日系企業の負担が軽減された。中国日本商会などはこれまでも中国への建議活動を続けてきたが、米中貿易摩擦を受けて、中国政府もビジネス環境の改善に乗り出していることから、日本企業にとっては改善を働き掛けるよい機会になる。

米国から批判された「中国製造2025」については、最近、中国政府も声高に言及することは少なくなったが、「製造大国」から「製造強国」を目指す動きが止まったわけではない。ハイテク技術の向上や基礎研究の強化の必要性は認識されており、中国で半導体やスマートフォン用OSなどの内製化に向けた動きは進んでいる。中国で自主開発が進む中で、日本企業を含む各国企業にとっては、部品などの販路拡大につながる可能性もある、と聞く。

米国が進める輸出管理規制強化に対しては、中国政府も「信頼できないエンティティーリスト」制度を制定するとした対抗措置を発表している。具体的内容の発表は当初予定より遅れているが、中国版「エンティティーリスト」制度が、日本企業にどのような影響をもたらすか注目される。

中国の研究者に聞くと、「米中貿易摩擦は中国に対してさまざまな国内改革を迫っており、時間はかかるが、これらの改革は中国経済を強くする方向に作用していく」という、プラスの側面が指摘された。

(友田大介、森詩織)

(中国)

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