欧州理事会、欧州投資銀行による気候変動対策向け1兆ユーロ投資支援を支持

(EU)

ブリュッセル発

2019年12月16日

欧州理事会のシャルル・ミシェル常任議長は12月13日、前日に開催されたEU首脳会議(2019年12月13日記事参照)を受けた声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで、世界に先駆けて、EUとして温室効果ガス排出を実質ゼロに抑える「気候中立」を、2050年までに実現するとする目標に合意したことの意義を強調した。しかし、欧州委員会が提案した「欧州グリーン・ディール」については、EU加盟国のうち1カ国が相応の時間が必要との認識を示したため、この点についての結論は2020年6月に開催予定のEU首脳会議に持ち越すことになった。

欧州産業界の声に配慮し、環境配慮と経済効率性の両立を目指す

欧州理事会は、「欧州グリーン・ディール」に関して12月12日に採択された文書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)において、気候中立への移行は、EU加盟国の経済成長・雇用創出、新たなビジネスモデルおよび市場の構築に貢献する可能性などの多大な機会をもたらすとし、そのカギを握るのは研究開発およびイノベーション政策であるとの見方を強調した。また、単に環境配慮型社会への公正な移行を進めるだけでなく、各国の実状にも配慮した上で、経済効率性を担保するため、適切な支援・投資振興・インセンティブなどの措置を整備する考えを示した。これは、欧州産業界の働き掛け(2019年12月12日記事参照)に対する一定の配慮とみられる。

特に投資振興・支援について、欧州理事会は、2021~2030年に気候変動対策・環境持続可能性のために1兆ユーロ相当の投資支援を表明している欧州投資銀行(EIB)の方針を歓迎・支持した。EIBは2019年11月15日に、化石燃料エネルギープロジェクトへの2021年以降の融資停止を表明(2019年11月20日記事参照)している。

また、「欧州グリーン・ディール」実施に伴い、ネガティブな影響を受ける地域(産炭地など)や産業分野(化石燃料関連産業など)を対象に、「公正な移行メカニズム」を適用し、EIBを通じて1,000億ユーロを拠出すると表明した欧州委員会の方針を欧州理事会は歓迎した。

他方、「欧州グリーン・ディール」実施に多大な影響を及ぼす、EU加盟国のエネルギー政策(エネルギー・ミックス、技術選択)について、欧州理事会は各国の判断を尊重する姿勢だ。特に原子力エネルギーについて、欧州理事会は「幾つかの加盟国が採用(継続)する方針を示した」ことも明らかにした。

このほか、欧州理事会は、EUが極端な脱炭素政策を推進した結果、欧州企業がコスト競争力を失うことに対する危惧が欧州産業界に広がっていることにも配慮する姿勢を示している。具体的には、EUとの比較で相対的に気候変動対策が十分ではない国からの輸入に、炭素国境税などを賦課する「炭素国境調整メカニズム」を欧州委が提案している点に留意するとしている。このため、WTOルールに抵触しない範囲で、今後、EUとして新たな通商措置を講ずる可能性がある。また、(EU域外の)第三国の(エネルギーや生産に関わる)施設についても、欧州理事会は「最高レベルの環境・安全基準への準拠をもとめるべき」としており、「欧州グリーン・ディール」の国際標準化や世界展開を推進する考えも示唆している。

なお、欧州理事会のミシェル常任議長は、2020年に予定されている中国との首脳協議でも、気候変動対策について取り上げると表明している。

(前田篤穂)

(EU)

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