樫山工業、ミュンヘン拠点設置と日EU・EPAで新規市場を開拓

(日本、EU、ドイツ)

欧州ロシアCIS課

2019年10月04日

樫山工業(長野県佐久市)は、1986年に国産初のドライ真空ポンプを開発して以来、30年余りにわたってドライ真空ポンプを主力とした多くの真空機器の製造・開発を行っている。食品の真空パック、冷蔵庫の真空室など、生活の身近に「真空」が存在する。パソコンやスマートフォンの主要部品である半導体や液晶パネルの製造においても、真空環境は欠かせないという。ジェトロは2019年9月20日、ドイツのミュンヘンに欧州法人を設立した狙いや、日本EU経済連携協定(以下、日EU・EPA)の活用状況について聞いた。

樫山工業は年間で、約3万台のドライ真空ポンプを生産している。同社の真空ポンプは、効率と省エネが特徴。特に、半導体や液晶パネルの製造では、空気だけでなく、副産物も同時に吸わなければならない。真空も作り、効率が良く、副産物が入っても止まらないといった条件を満たす必要がある。中国、韓国、台湾では、半導体や液晶パネルの生産が高い水準で推移している。これに対して、欧州では、開発・研究拠点が多く、大学やラボなどで効率良く簡単に真空を作りたい需要があり、そこを狙ったのが8年前に開発した「NeoDry」の小型・空冷シリーズだ。欧州地区では、Kashiyama Europeをドイツのミュンヘンに設立し、現地スタッフも含めて現在3人体制で新規市場開拓を目指している。

アジアと比べて、欧州では価格は重要ではあるが、性能や品質も重視される。加えて、デザイン面も重視されるケースもあり、欧州市場向けのブランディングとして、黒色デザインにしているという。

写真 NeoDryシリーズ(樫山工業提供)

NeoDryシリーズ(樫山工業提供)

日EU・EPAを活用し、関税率1.7%を削減

日EU・EPAの活用では、真空ポンプについては2019年2月の発効当初から主にドイツ向けで適用を受けている。品目別原産地規則の関税変更基準に、デミニマス(僅少)ルールを組み合わせて、輸出者側で自己申告し利用している。インボイスに別紙参照と書いて、自己申告書を別紙で添付している。日本に本社があるフォワーダー経由で、ドイツ税関に確認し、対応してきた。主要なパーツは全て国内産なので、比率でみると、デミニマスが効いてくる。関税率はこれまでの1.7%から即時撤廃で無税になった。1.7%なので、直ちに価格競争力に影響を与えるほどではない。しかし、新規市場を開拓するために新たな拠点をミュンヘンに設置し、全てが自社メリットになるため、削減できるところは削減していきたい、としている。

手間という意味では、最初は大変だったが、慣れれば、メリットの方が大きい。日EU・EPAの2019年2月導入については当初、フォワーダーから情報を入手し、利用に当たって、ジェトロの長野事務所に相談した。もともとベトナムとのEPAの利用を別の部署が進めていて、同部署とも協力して進めてきた。これまで特に、申告で問題になったことはなく、順調に活用している。課題は検認が入った時の対応で、バックデータの整理が大変だが、真空ポンプの部品を1次段階で分解して、価格表などを作成するなど証明書類を整備している。

(田中晋)

(日本、EU、ドイツ)

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