英国経済界、EU離脱新合意を歓迎も、懸念といら立ちなお募る

(英国、EU)

ロンドン発

2019年10月21日

英国のEU離脱(ブレグジット)をめぐる新たな合意(2019年10月18日記事参照)と、それに続く英国議会での攻防(2019年10月21日記事参照)を受け、英国の経済界は10月17日から19日にかけて相次いで声明を発表した。安堵(あんど)もつかの間、懸念といら立ちを募らせている。

英国商工会議所(BCC)のアダム・マーシャル事務局長は10月17日、英国とEUの交渉努力を評価しつつ、「この合意が企業活動にどのような意味を持つのか、精査が必要」とし、合意内容への評価は留保。「北アイルランドの企業や、同地域と取引のある企業にはなおさらだ」と続け、同地域のみ特別な扱いになる新たな取り決めに留意している。英国経営者協会(IoD)のジョナサン・ゲルダート事務局長も同日、合意を歓迎した上で、「企業、特に北アイルランドの企業は、確たる見解を示す前に、細部を評価する必要を感じるだろう」と述べている。

北アイルランドでは、小規模事業者連盟(FSB)同地区支部のティナ・マッケンジー政策担当代表が10月17日、合意を歓迎しながらも「この合意は一見、EU・英国の双方と関税なしで取引できる環境を北アイルランドに与えているが、常に悪魔は細部に宿るもの」とコメント。「小規模事業者の事務的負担を軽減する、あらゆる措置を講じることが不可欠」と続け、運用面での懸念もにじませた。

将来の英国・EU間の通商関係の方向が変わったことを懸念する声もある。製造業団体メークUKのスチーブン・フィプソン最高経営責任者は10月18日の声明で、「(旧政治宣言案に記されていた物品貿易に関する)可能な限り緊密な関係を築く公約がなくなったことを憂慮している」とコメント。英国産業連盟(CBI)のキャロリン・フェアバーン事務局長も17日、「EUとのシームレスな取引とEU規制への適合は、英国の繁栄と雇用に極めて重要」と指摘している。

新合意の議会採決先送りを受け、BCCのマーシャル事務局長は10月19日、「政府はこの先数日で、首相の(新)合意とその貿易、投資、地域社会、雇用への潜在的影響について、経済界からの多くの疑問に答える責任がある」とコメント。「10月末に合意がないままの離脱(ノー・ディール)を追求しないという確証を、経済界に与えるべきだ」と続け、なお10月末の離脱にこだわる政府を牽制している。メークUKのマイク・チェリー会長も19日、長引く混迷に失望を示すとともに、「重要なのは議員が翌週(21日からの週)、10月31日のノー・ディール回避と移行期間実現の決着をつけること」とし、政府と議会に決断を迫っている。

(宮崎拓)

(英国、EU)

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