欧州産業界、eプライバシー規則に関わる審議見直しを要請
(EU)
ブリュッセル発
2019年10月10日
欧州自動車工業会(ACEA)、デジタルヨーロッパ、欧州流通産業団体のユーロコマースやEU加盟国の各産業団体、在欧日系ビジネス協議会(JBCE)など域外国系産業団体を含む61団体は10月8日、欧州委員会が2017年1月に提案した「eプライバシー規則案」(2017年2月8日記事参照)について、EUは2年半かけて議論してきたが、進捗はわずかで多くの課題が残り、規則案修正は明確化するよりも混乱を招いているとし、欧州委員会と欧州議会の新体制発足は仕切り直しの機会だと期待する声明を発表した。
AI技術活用の障害になると懸念
「eプライバシー規則」は、電気通信サービス利用者に高いレベルのセキュリティーや機密保護を提供することを目的としており、個人データの保護を目的とするEU「一般データ保護規則(GDPR)」とともに、EUのデジタル単一市場戦略を支える重要な法基盤と位置付けられている。同様の趣旨の法令として「eプライバシー指令」(2002年7月31日発効)があるが、適用範囲を従来の電気通信事業者から、「スカイプ」やメッセンジャーアプリ「ワッツアップ(WhatsApp)」「フェイスブック・メッセンジャー」などを提供する通信サービスプロバイダーにも拡大するために、EUは新たな「eプライバシー規則」の導入を進めようとしている。
しかし、欧州委員会が2018年5月に発表した資料でも明らかにしたとおり、現在の規則案には、機密保護の対象などGDPRが定める内容と整合しないところが複数含まれている。今回の声明は、GDPRと一貫性を欠くeプライバシー規則案が欧州産業界のGDPR順守の努力を危うくし、広範な産業分野で多大な不確実性をもたらしていると指摘する。
欧州産業界はこれまでこうした問題に対処するため、「eプライバシー規則」案の問題点や懸念を指摘、定義の明確化などを求めてきたが、EU理事会は度重なる規則案修正によって事態改善を図る姿勢だったため、かえって混乱を増幅し、本質的な解決に至っていないとみている。このため、今回の声明を通じてEU加盟国に対し、次期欧州委員会に「eプライバシー規則」案の見直しを迫るよう要請したわけだ。
「eプライバシー規則」は「クッキー法」とも呼ばれており、ウェブサイトの運営事業者が利用者の閲覧履歴などのクッキー(Cookie)データを活用する場合、利用者本人の同意(クリックなど能動的な承認行為)を求める要素が含まれている。今回の声明は、eプライバシー規則の法的不確実性と上述のような硬直性が大幅に見直されない限り、欧州におけるデジタル化と人工知能(AI)の発展が妨げられるとしている。
(前田篤穂)
(EU)
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