クルツ前首相率いる国民党、総選挙で圧勝、連立交渉は難航か

(オーストリア)

ウィーン発

2019年10月01日

オーストリアで、内閣不信任案の可決に伴い(2019年5月28日記事参照)、9月29日に前倒しで行われた国民議会(定数183)選挙で、セバスティアン・クルツ前首相率いる中道右派の国民党が2017年の前回比6.1ポイント増の得票率37.5%を獲得し、第2党の社民党との差を大きく広げて第1党の座を維持した。社民党は5.6ポイント減の21.2%で、過去最低の得票率だった。

5月まで国民党の連立パートナーだった極右の自由党は、ハインツ・シュトラヘ前党首が絡んだスキャンダルのため、9.8%減の16.2%と大きく後退した。前回選挙で議席獲得に必要な4%の得票率を確保できなかった緑の党は10.0ポイント増の13.8%で議席を奪還した。リベラル派のネオスは2.8ポイント増の8.1%となった一方、前回、新党として4.4%で8議席を獲得した左派のリステ・ペーター・ピルツ〔2018年に「イエツト(今)」に改名〕は2.6ポイント減の1.9%で議席を失った。

暫定的な結果を基にすると、国民議会の新たな議席配分は、国民党71議席(+9)、社民党40議席(-12)、自由党31議席(-20)、緑の党26議席(+26)、ネオス15議席(+5)になる(表参照)。

表 オーストリア国民議会選挙の暫定結果(9月30日までに開票された郵便投票を含む)

国民党は大勝したものの過半数の92議席には満たなかったため、自由党、社民党、緑の党のいずれかと連立を組む可能性がある。このうち、再び自由党との右派連立が誕生する可能性は低い。政策面では一致点が多いが、自由党のスキャンダル、ヘルベルト・キックル前内相に対する不信、極右組織との関係などのため、国民党は自由党との連立を避ける可能性が高い。社民党との連立も、「長年の政権の形だった大連立の復帰」には国民党からの反対意見が根強い。そもそも、議席を大きく減らした社民党が従属的パートナーとして連立に参入する意欲は低いとも思われる。政治評論家や主要新聞の中には、緑の党との連立の可能性が一番高いとの指摘もあるが、環境政策から移民政策まで両党の政策は真っ向から対立するため、連立交渉は容易ではないとみられる。

クルツ国民党党首は9月30日、オーストリア放送局のインタビューで、「前回選挙の後の連立交渉は非常に早く完了したが、今回はもっと時間かかるだろう。クリスマス前に組閣できるとは思わない」と述べた。新政権が成立するまで、現在のビアライン首相の暫定政府が続くとみられる。

(エッカート・デアシュミット)

(オーストリア)

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