貿易産業相、RCEP交渉が妥結すれば多国間貿易体制支持の戦略的なシグナルに

(シンガポール)

シンガポール発

2019年09月06日

シンガポールのチャン・チュンシン貿易産業相は8月29日、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の交渉妥結が、「世界に、このアジアの一部地域が、グローバルな多国間貿易体制を支持し続けることを示す戦略的なシグナルになる」との認識を示した。同貿易産業相の発言は同日、シンガポール国際問題研究所(SIIA)主催のフォーラム「第12回ASEAN・アジア・フォーラム(AAF)」で述べたもので、政府やビジネス関係者ら約200人が出席した。RCEPはASEAN加盟10カ国のほか、日本、中国、インド、韓国、オーストラリア、ニュージーランドの計16カ国が参加しており、2019年末までの交渉妥結を目指している。

写真 シンガポール国際問題研究所主催のフォーラムで演説するチャン貿易産業相(左)(ジェトロ撮影)

シンガポール国際問題研究所主催のフォーラムで演説するチャン貿易産業相(左)(ジェトロ撮影)

2019年の同フォーラムのテーマは、「米中貿易摩擦とASEAN:生存、変革と成功」。チャン貿易産業相は基調演説の中で、ASEANの「中心性(centrality)」を維持し、強化する必要を訴えた。また、同相は「世界が分極化している中でASEANが魅力的で有効なパートナーとなるには、さらに域内統合に向けた努力を倍増する必要がある」と強調。そのための手段として、(1)非関税障壁の撤廃、(2)自由な人材やアイデアの移動、(3)食品や医薬品、知的財産権(IP)などの基準、規制の統一、(4)デジタル・コネクティビティーの強化、(5)RCEPなど域外の国々とのネットワーク構築の強化、に取り組む必要があると述べた。同相は「ASEAN域内の非関税障壁が、過去15年間で3倍になっており、関税削減による効果を損なう可能性がある」と指摘した。

ASEANの存在意義の維持には、世界とのネットワーク強化を

一方、チャン貿易産業相は同フォーラムで、米中貿易摩擦でASEAN加盟国が米中のいずれかの支持を迫られて分断する可能性についての質問を受け、「一方を支持してしまえば、その人の存在意義を失ってしまう。その存在意義を失えば、いずれかの一方を支持しなくてはいけなくなる」との中国の教えを引用。その上で、同相はASEANの存在意義について、「人口6億のASEANが団結し続ける限り、簡単にその存在価値を失うことはない」と述べた。さらに、同相は「米中が世界経済の3分の1を占めるが、残り3分の2を忘れてはいけない」と語り、ASEANが欧州や日本など世界とのつながりを深めるほど、その存在意義が高まるとの考えを示した。

(本田智津絵)

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