沖電線、日EU・EPA利用による関税削減効果で販路拡大に期待

(日本、EU、ドイツ、イタリア、フランス)

欧州ロシアCIS課

2019年09月30日

沖電線(神奈川県川崎市)は2018年4月に、沖電気工業の完全子会社OKI電線(通称)となり、OKI・EMS事業グループの中核企業となった。同社の設立は1936年8月までさかのぼり、電線・ワイヤーハーネス事業、フレキシブル基板事業、電極線事業の3事業を柱に、国内外で事業を展開してきた。同社は国内では、群馬県伊勢崎市と長野県岡谷市に工場を立地するほか、中国江蘇省常熟市と米国イリノイ州アイタスカ市に海外事業所を設置している。ジェトロは2019年9月20日、岡谷拠点に勤務する電極線事業部の吉本雅一部長と同部電極線技術課の木本洋一郎課長、および本社営業本部海外営業部海外営業課の大森裕司課長に、主に電極線事業の欧州輸出の取り組みや日本EU経済連携協定(以下、日EU・EPA)の活用状況について聞いた。

ワイヤ放電加工機用電極線は、金属を糸のこ状に溶解切断する放電加工の電極材で、金型、医療部品、航空部品などの加工で利用されている。OKI電線によれば、同電極線の年間市場規模は全世界で約430億円、自動車の生産増に伴い、新興国を中心に緩やかに増加しているという。OKI電線のシェアは5%で世界第5位で、複数メーカーでの放電加工機の認定部品として認知されるなど、高品質の製品を提供している。電極線事業は海外輸出が半分近くを占め、その4割程度が欧州向けとなっている。電極線メーカーは世界に30社程度ある。日本を含むアジア・メーカーのほかに、欧州ではドイツ企業のベルケンホフ(BERKENHOFF)やフランスのサーモコンパクト(THERMOCOMPACT)など老舗メーカーとの競合もある中、40年以上に及ぶ品質改良で生み出された高品質な製品が同社の強みとなっている。

写真 ワイヤカット放電加工機用電極線(沖電線提供)

ワイヤカット放電加工機用電極線(沖電線提供)

日EU・EPAの利用で、関税率4.8%を削減

2019年2月に発効した日EU・EPAについては、ドイツ、イタリア、フランス向けなどの輸出で5月から利用しており、関税の減免を受けているという。ワイヤ放電加工機用電極線の関税率は4.8%で、2月の同EPA発効から関税が即時撤廃となっており、その関税効果は大きい。原産性基準は、品目別原産地規則による関税分類変更基準で、インボイス上に申告文を英語で追記することで、特に問題なく利用できているという。

検認対応としては、本社海外営業部が工場と連携して対応する体制を整えている。証明書類について、輸出申告に関するものは本社が、HS分類に関するものは工場で保管していて、求められたら出せるように整備している。

同社では初めてのEPA利用がEUとのEPAで、日本商工会議所での特定原産地証明書の発給依頼経験がなく、初めて利用したEPAが自己申告制度だった。タイ向けの輸出もあるが、既に関税率が無税なため、EPAを利用する必要がなかった。日EU・EPAの利用経験を踏まえ、今後はインド向け輸出でもEPA利用を検討中だという。

なお、欧州向け輸出においてEPA活用で得た関税メリットは、輸入者である代理店側が全て得る。価格引き上げの議論もあるが、代理店がこうした関税節約額を原資として拡販してくれることを期待しているという。大森・海外営業課長は「欧州は地場のメーカーが強く、地産地消の考え方が強いため、販路拡大において、日EU・EPAの発効に伴う価格競争力向上は追い風になる」と、日EU・EPAのメリットを強調している。

(田中晋)

(日本、EU、ドイツ、イタリア、フランス)

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