フィリピンにおける米中貿易摩擦の影響は限定的か

(フィリピン)

マニラ発

2019年09月05日

フィリピンの2019年上半期における実質経済成長率は5.5%(2019年8月16日記事参照)と、2018年上半期(6.3%)、同下半期(6.1%)に続き、減速傾向をみせている。減速の原因について、当地では「近隣諸国と比べて米中への貿易依存度が低いフィリピンは、良くも悪くも米中貿易摩擦の影響を受けにくい」として、米中貿易摩擦の影響ではなく、世界経済全体の減速や政府の予算執行遅滞、特にドゥテルテ政権が強力に推進するインフラ整備計画の停滞に減速の理由を求める声が多い。

日系企業を含めて、米中貿易摩擦の影響により、フィリピンに生産を移管する企業、フィリピンで増産する企業は散見されるが、ベトナムなどアジア各国に比べると特に中国からの投資が急増している様子はなく、関連投資は限定的だ。ただ、フィリピンにとって主な外貨獲得源である(1)組立加工輸出、(2)ITを活用したアウトソーシング受託、(3)海外出稼ぎはいずれも外需に左右されやすく、米中貿易摩擦で世界経済が減速すれば、外貨収入が減り、フィリピン経済を牽引する国内消費の停滞や国際収支の悪化を招く恐れがある。8月29日に現地主要経済団体マカティビジネスクラブにおいて「米中貿易摩擦の影響」を出席者間で議論した際にも、地元財界の出席者は、米中貿易摩擦で世界経済が減速し、自国の金融市場が悪影響を受けることを懸念していた。

また、フィリピンの2019年上半期における輸出額は、前年同期比0.8%減の341億1,357万ドルだった。このうち、米国向けは9.7%増の56億1,018万ドル(シェア:14.9%→16.4%)、中国向けは7.7%増の45億8,600万ドル(12.4%→13.4%)と、米中両国向けの輸出は金額、シェアともに増加し、フィリピンから米中両国への輸出が好調に推移している。なお、米中向けのいずれも、フィリピンの主な輸出品目は、電気機器・部品、ボイラーおよび機械類・部品だ。

(石原孝志)

(フィリピン)

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