9月から新制度、下請けへの代金支払い遅延の大企業を公共調達から除外

(英国)

ロンドン発

2019年08月07日

英国政府は9月1日から、下請け企業に対する物品サービスなどの代金支払いが遅い大企業を公共調達入札から除外する制度を導入する。英国企業は伝統的に支払いが遅く、中小企業の経営を大きく圧迫している。その是正に向けて2017年4月からは従業員250人超の大企業に年2回の代金支払い状況報告を義務付ける制度を導入した(2017年1月23日記事参照)。

しかし、支払いの迅速化に著効は見られず、英国小企業連盟(FSB)は支払い遅延により毎年5万社が倒産に追い込まれているとしている。政府が支払い遅延問題の解決のために2017年12月に設立した独立機関の小企業コミッショナーは、(1)中小企業に対する支払いの3分の1が遅延(注)、(2)未払いの平均額は6,142ポンド(約79万2,300円、1ポンド=約129円)、(3)小企業の20%が支払い遅延によるキャッシュフロー難に直面しているとしている。

また、信用保護協会が7月19日に発表したレポートでは、中規模の企業も50%が支払いの遅れを経験しているほか、中小企業の14%は61日以上の支払い期間を認めるような契約を結んでいるともしている。しかし、中小企業の77%は顧客との関係を損なうことを懸念し、支払いの督促ができないと述べている。

こうした状況を改善するため、政府は9月1日から、支払い遅延を改善しない大企業を公共調達の場から除外する制度を施行する。500万ポンドを超える公共調達入札に参加する企業は適正な支払いの取り組みを実施していることを示す必要があり、受け取った請求書の95%以上を60日以内に支払うことが必要となる。ボリス・ジョンソン内閣で主計長官兼内閣府長官に任命されたオリバー・ダウデン議員は以前からこの問題に熱心に取り組んできたことから、新制度を強力に進めるとの期待が寄せられている。

しかし、7月28日付の「タイムズ」紙は、政府が支払い基準を常習的に満たさない企業に過去4年間に200件以上、総額900億ポンド相当の契約を発注したことを指摘し、中でも、国防省の発注先154件中60件が基準を満たさない企業だったとしている。同紙はさらに、新制度を導入後、これらの企業を実際に締め出すことができるのか、また、企業側が巧みに制度をすり抜けるのではないかとした上で、制度の実効性をいかに高めるかが課題と指摘している。

(注)EUの2011年支払い遅延に関する指令では、請求書を受け取ってから30日以内を目安に、最長でも60日以内に支払うよう定めている。

(岩井晴美)

(英国)

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