土地改革の政策変更に向けた提言書を公開

(南アフリカ共和国)

ヨハネスブルク発

2019年08月09日

南アフリカ共和国のトコ・ディディザ農業・土地改革・地方開発相は7月28日、「大統領土地改革(注)・農業諮問評議会」が作成した最終報告書を公開した。同評議会は、シリル・ラマポーザ大統領が就任後の2018年7月に「補償なしの土地収用」の議論加速化に向けて法案改正を行う意向を示したことを受け(2018年8月7日記事参照)、大統領の指示で2018年9月に設置された。土地政策に関する専門家ら有識者10人で構成される。同報告書は、2018年12月に下院議会で決定した憲法25条・財産権の改正(「補償なしの土地収用」を含む)を受け、同評議会が政府への提言書として作成し、5月に大統領に提出したものだ。

報告書では、政府による「補償なしの土地収用」が可能となる条件として、放棄された土地、投機目的で所有されている土地、非公式な居住地、所有者がいない都市部の建物などを対象とするとの提言が行われた。また、大規模な土地収用は認められない点も言及された。与党・アフリカ民族会議(ANC)の一部党員や、第2野党の経済的開放の闘士(EFF)などがより急進的な「土地の国有化」を進めるべきとの議論を繰り広げる中、あくまで条件を満たした場合にのみ収用可能とする内容にとどまった。また政府は、外国人・企業の土地の所有範囲を定め、中長期のリース契約に関して検討すべきと、外国人の土地所有に関する提言が盛り込まれた。さらに、南ア国民・企業が所有できる土地の広さを制限する「土地シーリング」をさらに議論すべきとの見解も追加された。

今回の発表について、放棄された土地や投機目的の土地の定義が曖昧なほか、同政策履行に至るまでの道筋が不明瞭だとの意見も出ている(「デイリー・マーベリック」紙7月29日)。また、南ア農業協会アグリSAは、「土地シーリング」が適用されると食糧安全保障上の観点から懸念があるとして、反対の姿勢を示している。

(注)アパルトヘイト(人種隔離)時代に、白人支配階級により強制的に土地を奪われた人々(主に黒人)に対して、土地(主に白人所有の農地)を返還する政策。

(高橋史)

(南アフリカ共和国)

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