ノー・ディールは自動車産業に毎分5万ポンドの損失

(英国)

ロンドン発

2019年07月03日

英国自動車製造販売者協会(SMMT)は6月27日、2019年5月の国内自動車生産台数が前年同月比で15.5%減となったと発表した。月別生産台数は12カ月連続で減少しており、1月から5月までの生産台数は前年同期比21.0%減だった。国内外市場の鈍化とモデルチェンジの影響および、3月末に起こり得た英国のEU離脱(ブレグジット)に際し、流通面などでの混乱に備え、各メーカーが例年夏に実施している定期修理のための工場停止を4月に前倒したことが影響した。英国で生産される自動車の80.9%が輸出されており、SMMTは無関税・摩擦のない貿易の重要性を強調している。

また、SMMTは6月25日、「2019年英国自動車貿易報告PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)」を公表した。これによると、合意のない離脱(ノー・ディール)になる場合、国境での円滑な貿易が阻害されることにより、ジャスト・イン・タイム制度(注)に大きな支障を与え、生産の遅れにより1分ごとに5万ポンド(約685万円、1ポンド=約137円)、1日7,000万ポンドの損失が自動車業界で発生し得るとしている。また、WTO協定税率が適用される場合、乗用車の輸入にかかる関税は年間45億ポンドとなり、競争力に大きな打撃を与えるとした。一方、円滑な離脱をし、自動車産業を支援する貿易政策がとられた場合、同産業の貿易額を20%(200億ポンド)増加させる可能性があるとした。マイク・ホーズ会長は同日の国際自動車サミットで、EU離脱の不確実性による自動車業界の懸念を訴え、「われわれはディールが必要だ。ノー・ディールは選択肢にない」とし、次期首相は摩擦のない貿易を維持するディールを保証しなければならないとくぎを刺した。

2019年に入ってから、大手メーカー2社が英国からの撤退を公表した。ホンダは2月、スウィンドン工場での生産終了を発表した(2019年2月20日記事参照)。フォードは6月6日、従業員1,700人を有するウェールズ南部ブリジェンドのエンジン工場を2020年に閉鎖すると公表した(2019年6月28日記事参照)。フォードは本件を欧州事業戦略の見直しの一環と位置付け、閉鎖の理由を、消費者需要の変化やコスト競争力の低下、同工場で生産するエンジンの種類が減少する一方、他のモデルのエンジンを生産することも見込めないことにより経済的な持続が困難になったためと説明。また、同社は6月27日、2020年末までに欧州全体で1万2,000人の人員削減を公表した。

(注)できるだけ在庫を持たず、その都度、必要な部品などを供給すること。

(鵜澤聡)

(英国)

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