英シンクタンク、英国が景気後退に突入した可能性を示唆

(英国)

ロンドン発

2019年07月30日

英国の国立経済社会研究所(NIESR)は7月22日、経済予測の概要を発表し、英国のEU離脱(ブレグジット)を控える中、国内の経済成長は既に止まり、景気が後退し始めている可能性があると指摘した。その確率は25%としている。

また、離脱期限である10月31日以降の見通しについて、「無秩序な合意なき離脱(ノー・ディール)」(注1)の場合、深刻な景気後退に陥る恐れがあり、経済への影響は極めて不透明なものになるとした。「秩序のあるノー・ディール」の場合は、2020年のGDP成長率は0%と低迷し、ポンド安と緩和的な金融政策により消費者物価指数は4%を超えるとした。他方、「合意のある円滑な離脱」となった場合でも、EUとの将来の通商関係の不確実性や投資の手控え、生産性の成長率の低さなどが続くことから、2019年と2020年の成長率が1%程度になると見込んでいる。

ブレグジット後の経済見通しをめぐっては、予算責任局(OBR)が7月18日、財政リスク報告書を公開し、ノー・ディールの場合、2020年度(2020年4月~2021年3月)以降、公的債務残高が年間約300億ポンド(約4兆500億円、1ポンド=約135円)増加し、2023年度までにGDP比で12%に達するとした。また2019年第4四半期(10~12月)から1年間の不景気に突入し、GDPは2.1%減少すると見込む。

ノー・ディール時の経済への影響について、政府はEUに残留した場合と比べて、GDPは9.3%減(注2)、イングランド銀行は7.75%減(注3)としており(2018年11月30日記事参照)、予測の前提に違いはあるものの、各機関による経済見通しの値に幅がある。

フィリップ・ハモンド前財務相は7月2日、ノー・ディールにより900億ポンドの財政負担が発生すると警告した。離脱強硬派の代表格ジェイコブ・リースモグ下院院内総務・枢密院議長は7月16日、「テレグラフ」紙への寄稿で、ハモンド前財務相の予測に反論し、予測は英国がEU域外国と締結する自由貿易協定(FTA)の経済効果や英国が支払う必要のなくなる年間200億ポンド相当のEUへの拠出金などを考慮していないと批判している。その上で、カーディフ大学マクロ経済研究グループによる「世界貿易モデル」の分析を引用し、ノー・ディールの場合でもEUやEU域外国との新たな通商協定の締結などにより、約800億ポンド分の経済効果が得られると主張した。ノー・ディールの可能性が残る中、離脱後の予測についてさまざまな見解が飛び交う状況が続いている。

(注1)イングランド銀行(中央銀行)によると、英国がEUと離脱協定を締結せず、かつEUとの国境で発生する関税手続きなどに十分な対策を講じないままブレグジットが起こる状況を指す。

(注2)英国がEUに残留する場合を基準として、長期的な経済的影響を予測。EUを含む全ての国とWTO税率で貿易を行い、かつ欧州経済領域(EEA)から労働者を受け入れないことを前提とする。

(注3)2023年のGDPについて、2016年5月時点のEU離脱を想定していない予測と比較。EUがFTAを結ぶ第三国と英国が協定を締結せず、EUとの国境で関税手続きが円滑に進まないことを前提とする。

(鵜澤聡)

(英国)

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