熟練人材の移住法案を可決、人材不足への対策進める

(ドイツ)

デュッセルドルフ発

2019年06月19日

ドイツ連邦議会は6月7日、政府による熟練人材の移住法案を可決した。同法案は、EU加盟国外の熟練人材がドイツ国内へ移住する際の障壁を軽減することによって、国内で問題になっている同人材不足を解消し、労働力を確保することに主眼が置かれている。ホースト・ゼーホーファー内相は同法案について、「ドイツにとって、必要で利益をもたらす人材の移住を可能にする」と指摘するとともに、労働力を確保しつつ、(不当に)社会保障制度の受益者となることを目的とした移住を防ぐとした。

これまで、EU域外国民のドイツへの労働許可および移住は、熟練人材不足と認められた職業のみに制限されていたが、今後はこの制限が撤廃され、全ての職業で、高等教育の修了者や職業訓練を受けた労働者は、雇用契約があれば、その専門性の範囲での労働許可の取得が可能となる。これにより、企業が、必要な職種で、必要な能力を持つ人材の採用が可能になる、としている。

また、これまでEU域外の人材を雇用する場合、事前にその職業や職種にふさわしいドイツ人やEU加盟国の国籍を有する者の採用が困難なことを示すことが審査の項目として入っていたが、今後、この審査項目は基本的に撤廃される。さらに、職業訓練を受けた熟練人材については、就職活動を行うための有期の入国・滞在が可能となる。そのほか、ドイツ国外で職業訓練を受けた熟練人材に対し、ドイツでの職業訓練との同等性を認めるための補完的な資格要件を満たす機会を拡充させるとしている。一方、45歳を超えた人材に対する条件は厳しくなり、在留資格の取得に最低限の給与または適切な年金受給資格の証明が求められる。

ドイツIT・通信・ニューメディア産業連合会(BITKOM)のアヒム・ベルク会長は同日、同法案の可決を歓迎する声明を発表した。同会長は「ドイツでは特にIT専門者が不足しており、人材不足は、将来の最も重要な分野の1つであるデジタル化での成功を阻害する」と指摘。さらに、「熟練人材の移住を促すことが、ドイツに大きな利益をもたらすだろう」と期待感を示した。ドイツ雇用者団体(BDA)も歓迎の声明を発表した一方、移住人材の派遣契約での採用が禁止されたままにされている点について否定的な見解を示した。また、ドイツ機械工業連盟(VDMA)のティロ・ブロートマン事務局長も、歓迎の声明を発表したものの、同じく、移住人材の派遣契約での採用の禁止については、中小企業にとって「障害になる」としている。

なお、同法の適用開始は2020年初めとなる見込み。

(ベアナデット・マイヤー、森悠介)

(ドイツ)

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