米中間に戦略的な信頼ないのが根本的問題、シンガポール首相が講演

(シンガポール)

シンガポール発

2019年06月11日

シンガポールのリー・シェンロン首相は5月31日、米中間の対立の根本的な問題が相互に戦略的な信頼がないことだとの考えを示した。5月31日から6月2日まで同国で開催された毎年恒例のアジア安全保障会議〔シャングリラ会合、英国際戦略研究所(IISS)主催〕での基調講演で述べたもの。

リー首相は「米中全面対決に戦略的な必然性はない」と述べた。その上で、仮に全面対決となった場合、米国と旧ソ連との冷戦とは様相が異なるものになるとの認識を示した。その理由として、中国は政治的には共産主義だが、市場原理を取り入れるなどし、「米中間に妥協が不可能なほどのイデオロギー面での違いがない」と語った。また、旧ソ連とは異なり、中国は日本、韓国、フィリピン、タイ、オーストラリア、シンガポールなど米国の同盟国、パートナー国にとって最大級の貿易相手国だと指摘。「新しい冷戦下では、敵と味方が明確ではない」とした。

さらにリー首相は、仮に米中の全面対決ではなく、緊張状態が長期にわたる場合でも、朝鮮半島や環境など主要な国際問題で米中のコミットメントがなければ解決が難しいと述べた。また、緊張状態が長期にわたった場合の経済面への打撃は、「世界のGDP成長率が1~2ポイント減少するだけではすまなくなる」と強調した。

米中のTPP参加の検討を期待

一方、リー首相は「環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP、いわゆるTPP11)」について、韓国やタイ、英国などの国々が参加の意向を示していることを歓迎した。中国もCPTPPを注視しているとも指摘し、「現時点で参加しなくても、将来の参加を真剣に検討することを望む」と述べた。さらに、「米国も同様に、(CPTP参加を)将来再検討できるような政治環境になることを望む」と語った。

リー首相は東アジア地域包括的経済連携(RCEP)について、北東アジアや東南アジア、インド、オーストラリア、ニュージーランドと交渉参加国が幅広いのは、「米国やその友好国を排除するブロックと誤解されるリスクを回避する狙いがある」と説明した。同首相は、RCEP交渉参加国が「年内もしくは、主要交渉国の選挙スケジュールが許す限り早期に交渉妥結に向けた最終ステップに進むことを期待する」と述べた。

(本田智津絵)

(シンガポール)

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