ゼレンスキー政権の最重要課題は司法制度改革と反腐敗・汚職対策

(ウクライナ)

欧州ロシアCIS課

2019年06月05日

5月21日に新しい大統領が就任し、7月21日には議会選挙が予定されるウクライナ。ペトロ・ポロシェンコ前大統領の政権運営に対する評価と、ボロディミル・ゼレンスキー新政権の課題について、国際弁護士事務所「ベイカー・マッケンジー」キエフオフィスのパートナー、イホル・オレホフ氏に話を聞いた(5月28日)。

写真 イホル・オレホフ氏(ジェトロ撮影)

イホル・オレホフ氏(ジェトロ撮影)

(問)ポロシェンコ前大統領の任期(2014~2019年)の政権運営や社会経済改革に向けた政策への評価は。

(答)全体を100点とすると、30点くらいとするのが適切な評価だろう。実際、ポロシェンコ前大統領の最も大きな功績は、DCFTA(深化した包括的自由貿易協定)を含むEUとの連合条約の締結、経済の回復、ロシアとの紛争を「凍結状態」に持ち込んだこと、ロシアからEUへの貿易パートナーへの転換、銀行業界の改革、そしてEUとのビザ免除合意だ。このほか、税制、外貨規制、企業活動関連制度(法人登録など)など、多様な分野の改革に手を付けた。ウクライナが独立してからの20年間で手を付けられなかったこれらの改革を、直近5年間で開始したことは評価できる。残念なことは、このような短い時間では改革が達成できなかったことと、最も重要な司法制度改革と腐敗・汚職対策が残ったことだ。ポロシェンコ氏と彼自身が所有するビジネスの不透明な関係も、民衆のマイナスの評価の原因となった。

(問)新しく大統領に就任したゼレンスキー氏の課題とウクライナの事業環境改善に向けたシグナルとして注目すべき点は。

(答)最も注目すべきは司法制度の改革で、判事任命手続きの透明性を高めることだ。しかし、ウクライナ人のメンタリティーも関係しており、時間がかかる。加えて、税制改革だ。今月(2019年5月)に、世界大手会計事務所PwCでの勤務経験があり、在ウクライナ・米国商工会議所(アムチャム)法律部会の共同部会長を務めた弁護士セルヒイ・ベルラノフ氏が、国税局長官に任命された。同氏が進める改革内容とスピードに注目すべきだ。また、対外債務の返済(注)に当たり、金融支援を受けるIMFとの関係が重要。議会選挙後(2019年5月28日記事参照)の組閣で、誰が首相と財務相のポストにつくかが注目される。ゼレンスキー氏のコメディアンとしての過去が強調されがちだが、同氏は20以上の映画製作・ショービジネス企業を所有・運営するビジネスマンとしての感覚を持っている。

ジェトロのヒアリング(5月27~28日)によると、在キエフの国際金融機関、欧州ビジネス支援団体、現地日系企業(販売)トップのいずれの見方も、a.ポロシェンコ氏による改革への一定の評価、b. 新政権の課題は司法制度改革と反腐敗対策、との点で一致している。また、7月21日に行われる議会選挙(2019年5月28日記事参照)後の新内閣の組閣を待って、新たな関係構築を行うとの意向を示している。

(注)ウクライナはGDPの60%に匹敵する798億ドルの政府債務(政府保証債を含む)を抱え、2019年末までに約63億ドルを返済する必要があるとされる。

(高橋淳)

(ウクライナ)

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