EU域内の失業保険制度改革、スイスにも波及か

(スイス)

ジュネーブ発

2019年05月14日

EUが2016年から検討を進めている、域内越境労働者の失業保険負担を居住国負担から勤務先国負担に変更するEU規則改正案の審議について、欧州議会は合意を先延ばしにした。欧州議会の雇用・社会問題委員会は規則改正案の合意を3月19日に発表、本会議での承認を経て発効に向けたプロセスが完了するとしていたが、フランス紙「ル・タン」が4月13日付で合意延期を報じた。同紙によると、欧州議会は5月23~26日の選挙により新体制となることから、審議は7月以降の新体制による欧州議会に委ねられることになる。

これは、EU加盟国だけを対象とした社会保障システムの調整にかかるEU域内の法制度の改正だが、EUとスイスとの間で2014年から交渉が続く制度的条約は、EU法令の改正がダイナミックにスイスにも適用される仕組みのため(2019年3月15日付地域・分析レポート参照)、今回の改正はEU諸国からスイスに越境して通勤する労働者にも適用され、スイス側に新たな財政負担が発生し得る。スイス連邦経済省経済事務局(SECO)の発表によると、2018年の国外からの越境通勤者はフランスからが約18万4,000人、イタリア約7万2,000人、ドイツ約6万人に上る。同紙によると、フランスからの越境通勤者だけで、スイスをはじめとしたEU非加盟国が新たに負担することとなる失業保険額は7億ユーロ(2017年の統計に基づく)に上ると試算されるという。

欧州議会での審議延期は、スイス側にも対応のための時間的猶予を与えるとしてスイス国内では歓迎する向きもある。ただ、域外からの高技能者の獲得は産業競争力強化につながることから、スイス政府の立場としては、基本的には越境労働者数を含めて外国人労働者の登用には前向きだ。2018年12月19日付の「スイス・インフォ」誌によると、スイス株式指数SMI Expanded Indexを構成する大企業50社中、外国人が最高経営責任者(CEO)に就いている企業は26社に上る。

(和田恭)

(スイス)

ビジネス短信 d8d216a6258a4b5c