財務省の為替政策報告書、人民元の過小評価に引き続き懸念表明

(米国)

ニューヨーク発

2019年05月31日

米国財務省は5月28日、2019年上半期の「米国の主要貿易相手のマクロ経済と為替政策(Macroeconomic and Foreign Exchange Policies of Major Trading Partners of the United States)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)」報告書(為替政策報告書)を公表した。2018年後半以降に為替操作を行っていたと認定される国(為替操作国)は、2018年10月に公表された前回の報告書(2018年10月19日記事参照)と同様に、なかったと報告した。

これまで為替操作国の認定を行うに当たっては、12の主要貿易相手国・地域を対象に、(1)大幅な対米貿易黒字(物品の対米貿易黒字額が年間200億ドル以上)、(2)実質的な経常収支黒字(経常収支黒字額がGDP比3%以上)、(3)持続的で一方的な為替介入(介入総額がGDP比2%以上かつ過去12カ月間のうち8カ月以上の介入実績)という3つの基準が設定されていた。しかし、今回は基準を変更し、対象国・地域を米国との物品貿易の輸出入総額が400億ドルを超える場合としたため、21カ国・地域が対象となった。また、(2)の経常収支黒字額をGDP比2%以上へ引き下げ、(3)の介入総額をGDP比2%以上かつ過去12カ月間のうち6カ月以上の介入実績として短縮した。

今回の報告書では、前回と同様に3つの基準全てに該当した国はなかったが、監視リストには、前回も取り上げられた中国、日本、韓国、ドイツの4カ国のほか、イタリア、アイルランド、シンガポール、マレーシア、ベトナムが新たに加わり、計9カ国が監視対象とされた。

中国については、前回と同様、(1)のみが該当していたが、米国の貿易赤字において巨大かつ不均衡な割合を占めると米国が判断したことから、引き続き監視対象とされた。報告書では、「中国の非関税障壁、非市場メカニズム、補助金などの差別的な慣行が(米国と)中国の貿易・投資関係をゆがめている」と指摘した。また、中国の為替介入による人民元の過小評価に強い懸念を抱くとし、人民元は対ドルで2018年に8%下落したと警戒感を示した。

日本、ドイツは引き続き(1)と(2)の2つの基準にそれぞれ該当していたことから、前回と同様に監視対象とされた。韓国は今回(2)のみに該当していたが、前回報告書で(1)と(2)に該当していたことから、引き続き監視対象となった(注)。イタリア、アイルランド、マレーシア、ベトナムは(1)と(2)に、シンガポールは(2)と(3)に該当していたことから、新たに監視対象追加とされた。報告書では、日本について「2011年以降、為替介入を行っていない」ものの、引き続き「米国と日本の間に大きな貿易不均衡が存在することを懸念している」とした。前回の報告書で監視リストに挙げられていたスイス、インドは、いずれも2回連続で1つの基準にしか該当していなかったことから、監視対象から外された。

なお、上期の為替政策報告書の提出期限は、本来は4月だが、財務省は、評価基準の変更などにより提出が遅れたとしている(ブルームバーグ5月29日)。

(注)監視リストに一度挙げられた国は、少なくとも向こう2回分(1年分)の報告書で対象国として取り上げられ、3つの基準にみられる改善が一時的なものでなく、永続的なものになっているかどうかについて評価される。

(須貝智也)

(米国)

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