新施政方針の発表後も抗議活動は収束せず

(フランス)

パリ発

2019年05月09日

フランスで2018年11月に始まった政府への抗議活動「黄色いベスト」運動(2018年12月12日記事参照)は6カ月を経過した現在も続く。毎週土曜日、パリを中心に各地でデモ・抗議活動を行っており、その25回目に当たる5月4日には、フランス全土で1万8,900人(パリ1,460人、内務省調べ)が参加した。動員数は10万人を超えた2018年11~12月からは大幅に減ったものの、一部のデモでは黒づくめの左翼集団「ブラック・ブロック」が加わり、警察官との衝突、銀行や商店への破壊活動を繰り返した。

「黄色いベスト」の抗議を受け、マクロン大統領は2018年12月、低賃金労働者向けの購買力引き上げ措置(法定最低賃金の引き上げ、残業手当に関わる税・社会保険料の減免など)を実施する一方、構造改革の方向性について国民から広く意見を聞くため、全国の市町村、県、地域、国レベルで延べ1万回を超える「国民協議」を1月から3月にかけて実施。その結果を踏まえ、大統領は4月25日の記者会見で、新たな施政方針についての声明を発表した。

声明では、中流階級の税負担を軽減するため、歳出削減や法人向け税額控除措置の見直しなどを財源に、50億ユーロ規模の所得税減税を実施するとした。さらに、地方における公共サービスの維持・拡充に向け、大統領任期中に市町村長の承認なしに学校や病院を閉鎖しないことや、必要であれば大統領が公約していた5年間で12万人の公務員削減目標を見直す考えを示した。国民の政治参加の推進については、「黄色いベスト」が要求していた「国民発議の国民投票」の導入を見送る一方、既存の「議員発議の国民投票」制度の利用を容易にするため、実施条件となる国民の署名数を現行の450万人から100万人に引き下げるとした。

こうした努力にもかかわらず、マクロン大統領の支持率は低迷。新たな施政方針の発表直後に行われた世論調査(「ル・フィガロ」紙4月26日)で、63%が「大統領に説得力はなかった」と答えた。また、今回の大統領声明は「黄色いベスト」運動に終止符を打つ効果を持たないと回答した人も80%に達した。

マクロン大統領への国民の不信感は、5月26日の欧州議会選挙にも影響をもたらすと考えられる。「黄色いベスト」は投票前日の5月25日に大規模なデモを呼び掛けている。

(山崎あき)

(フランス)

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