デジタル貿易と原産地規則の影響大、USMCAの影響報告書発表

(米国、メキシコ、カナダ)

米州課

2019年04月19日

米国国際貿易委員会(ITC)は4月18日、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)が米国経済や産業へ与える影響報告書を発表した(注1)。報告書では、USMCAが発効し完全に履行されている状態で米国経済にポジティブな影響を与えると結論付けられた。具体的には、USMCAが発効してから6年後、北米自由貿易協定(NAFTA)が現在のまま存在している状況と比較して、米国の実質GDPは682億ドル(0.35%)増加し、雇用は17万5,700人(0.12%)増加するとした(注2)。ただし、NAFTAによって、既に関税が撤廃され多くの非関税障壁も取り除かれていることから、与える影響の度合いは穏やかだとした。

影響が大きいのはデジタル貿易と自動車の原産地規則

特に大きな影響を与えるUSMCAでの合意事項には、デジタル貿易の不確実性の除去、新たな自動車原産地規則の採用の2つを挙げた。デジタル貿易については、サーバーの現地化要求や国境を越えるデータ移動の制限を禁止することが、IT関連のサービス産業だけでなく、貿易を行っている製造業、農業など幅広い産業にポジティブな影響を与えるとした。

自動車の原産地規則については、域内原産割合(RVC)の引き上げに加え、北米産鉄鋼の購入義務など新しいルールが加わったことから、自動車部品の生産は増加するが、完成車の生産は減少するとした。販売面では、USMCAの特恵関税を利用しない企業の増加や、部品の生産コストの上昇などから、価格がわずかに上昇し、販売台数が約14万台減少。雇用については、完成車の生産で1,500人が減るものの、部品の生産で3万人増えることから、合計では2万8,000人以上増加するとした(注3)。

USTRも自動車産業に関する独自試算を発表

米国通商代表部(USTR)も同日、USMCAが自動車産業に対して与える影響について、独自の試算結果を発表した。それによると、原産地規則の厳格化を背景に、今後5年間で自動車関連製造業者から340億ドルの新規投資(注4)があり、自動車産業で新たに7万6,000人以上が雇用されると見込む。

ITCの報告書では、原産地規則の厳格化に伴うネガティブな影響も指摘されているが、通商専門誌「インサイドUSトレード」(4月18日)によると、USTRの高官は、これまでのUSTRとの対話の中で自動車メーカーからUSMCAの特恵関税を利用しないとの発言はなかった、USMCAの原産地規則に従うことは経済的に意味があると口頭で伝えられている、と否定している。

(注1)2015年6月に成立した大統領貿易促進権限(TPA)法は、大統領による協定署名後105日以内に、影響報告書を大統領と議会に提出するようITCに義務付けている。USMCAは2018年11月30日に署名され、本来ならば3月15日が期限だったが、2018年12月22日から1月25日までの35日間、政府の一部機関が閉鎖されていたため(2019年1月31日記事参照)、発表が遅れたとみられる。

(注2)ITCが今回採用した定量分析は、これまでの報告書よりも広範な分野を対象としている。原産地規則や知的財産権などの非関税障壁が、過去の報告書よりも相当程度、定量化して計算に組み込まれている。

(注3)現状を基にして計算されており、例えば、1962年通商拡大法232条に基づいて自動車・同部品に追加関税が課された場合は、報告書で示された数値よりも大きく変わる可能性があるとしている。

(注4)ゼネラルモーターズ(GM)やトヨタなどによって既に発表された153億ドルの投資も含まれる。

(赤平大寿)

(米国、メキシコ、カナダ)

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