世界貿易システムとWTO改革を世界の有識者が議論

(世界)

国際経済課

2019年04月10日

ジェトロは4月9日、「岐路に立つ世界貿易システムと、持続的な世界貿易の成長のためのWTO改革」をテーマに、現在の貿易上の課題とその解決への道筋に焦点を当てたシンポジウムを東京都内で開催した。今回のシンポジウムは、日本が今年のG20議長国を務めるタイミングを捉えたもので、石川昭政・経済産業大臣政務官、インドネシア元商業相のマリ・パンゲストゥ・インドネシア大学経済学部教授をはじめとする国内外の識者が登壇、200人定員の会場が埋まった。

冒頭、ジェトロの赤星康・副理事長が主催者を代表してあいさつし、保護主義的な措置がビジネスに影響を与える点などを指摘し、WTO改革やデータガバナンスなどの分野で、時代に合わせたアップデートが必要だと問題提起した。

基調講演に立った石川政務官は、日本がG20議長国であることに触れ、日本としては、(1)データの流通と活用のための国際的な枠組みの構築、(2)市場歪曲(わいきょく)的措置の除去、(3)WTO改革、(4)持続的かつ包括的な経済成長に向けた貿易の促進の4点に取り組んでいく、と述べた。パンゲストゥ教授は、多国間貿易体制の重要性に触れ、米国の反対により上級委員の選任ができていない紛争解決機能の改革を喫緊の課題に挙げたほか、WTOの機能強化に当たっては、デジタル貿易など新しい課題にも取り組んでいく必要性も指摘した(添付資料参照)。

続くパネルディスカッションでは、「フィナンシャル・タイムズ」紙のロビン・ハーディング東京支局長の進行の下、パンゲストゥ氏のほか、国際商業会議所(ICC)のジョン・デントン事務総長、WTO貿易交渉委員会(TNC)のビクター・ド・プラド部長、経済産業省の田中繁広通商政策局長、APECビジネス諮問委員会メンバーの遠藤信博日本電気会長が登壇し、議論を交わした。

WTO改革について、デントン氏は、現代ビジネスの問題との「関連性」、妥結に向けた「柔軟性」、見直す内容に関する「アカウンタビリティー」の重要性を指摘した上で、改革は(現行)システムの保全、前向きな議題(agenda)、レビュープロセスを考慮して進める必要があるとの認識を示した。遠藤氏は、ルール形成機能の重要性について、世界で情報通信技術(ICT)化が急速に進んでいる例を挙げ、コンセンサス方式に固執する結果、ルール形成が遅れて機能不全に陥りかねないと警鐘を鳴らし、多数派が先行するケースがあっても良いとの持論を披露した。田中氏は、通報義務など既存の規則を適切に機能させる点などを指摘した。これらの意見に対し、ド・プラド氏は、164に上るWTO加盟国それぞれの関心は異なるものの、意見を共有している点もあるとし、紛争解決機能の改革などで複数国から提案がなされている点などを紹介した。

パンゲストゥ氏は、6月に大阪で開催されるG20首脳会議で、WTO改革やデータフローなどの世界的な課題に対して今後の方向付けがなされる期待を示した。

(長崎勇太、朝倉啓介)

(世界)

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