中銀総裁、不安材料あるも先行きには楽観的

(カナダ)

トロント発

2019年04月11日

カナダ銀行(中央銀行)のスティーブン・ポロズ総裁は4月1日、ヌナブト準州イカルイトで開かれた会議で講演した。2018年後半以降の原油価格の低迷、住宅市況の減速、通商をめぐる不確実性増大などを経済の先行き懸念を招く材料として挙げ、警戒が必要とする一方で、サービス産業を中心に雇用は拡大し、実質賃金は上昇するなど、カナダ経済の調整も進んでいると指摘した。総裁は利上げに関する考えを明示しなかったが、経済の先行きについては楽観的な見通しを示した。

講演の冒頭でポロズ総裁は、最近の貿易が成長鈍化している理由として、グローバル・バリューチェーンの単純化を挙げた。1990年代には製造企業の多くが労働集約的な工程を開発途上国などに移すことでコストの低減を図り、2国間・地域間の自由貿易協定(FTA)の発効が増えたこともあり、世界規模での複雑なバリューチェーンが広がっていった。さらに、2001年の中国のWTO加盟により、中国は多くの企業のバリューチェーンの中心となったが、人件費の上昇や工場の自動化が進み、資本集約的な投資が増えることで、生産を先進国に戻す動きも出てきていると指摘。ポロズ総裁は「(20~30年前に見られたような)完成品までの工程の細分化が少なくなった結果、各国のGDPに占める貿易の割合が低下する傾向にある」と述べた。

カナダの成長はサービス産業が牽引

続いてポロズ総裁は、カナダのサービス産業の成長とカナダ経済の構造変化に触れた。これまでは貿易と言えば財の貿易が主体であり、カナダの主要輸出品である石油、ニッケル、カノーラ、豚肉、木材などの天然資源や農産品がカナダ経済全体を牽引していたが、現在は主にサービス産業がそれを担っていると指摘した。貿易摩擦による不確実性により貿易や投資の減速がみられる中でも、カナダの労働市場は非常に良い状況で、失業率は歴史的に最低水準に近く、就業者数もこの12カ月で2%増加しているが、その内訳をみると、幾つかのサービス業界が牽引しているという。

ポロズ総裁はさらに、技術の進歩が幅広い経済分野で同様の調整を促している点を指摘した。自動化により、製造分野から財務アドバイスまで、特定の仕事がなくなる可能性がある一方で、ソフトウエア開発や先端技術を維持する仕事を創出し、これらの高賃金労働者があらゆる種類の商品やサービスを購入することにより、建設、運輸、メンテナンスなどを含む伝統的な分野でも需要を生み出しているという。

(酒井拓司)

(カナダ)

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