給与明細書に関する4月6日からの法改正に要注意

(英国)

ロンドン発

2019年04月05日

英国で4月6日から1996年雇用権法2018年(項目別給与明細書)(修正)令が施行され、給与明細書に関するルールが変わる。同法は1996年雇用権法第8条を改正したもの。従来は雇用主が従業員に賃金を支払う際、あるいはその前に、書面の明細書を渡すことを義務付けていたが、対象には派遣社員やゼロ時間契約(注)労働者は含まれていなかった。また書面には、(1)支給総額、(2)超勤手当など変動する金額および関連する固定控除額、その支払いが生じた目的、(3)手取り額、(4)手取り額が幾つかの部分に分かれ、それが異なる方法で支払われる場合、支払額および支払方法の記載が義務付けられていた。

今回の法改正により、給与明細書の支給対象を従業員だけでなく全労働者に拡大し、その労働時間を明記することが義務付けられた。ただし、月給制など定額が支払われる雇用契約であれば、定額部分の労働時間の記載は不要。時間外勤務など労働時間によって変動する部分について記載義務がある。このほか、無給休暇の取得、法定疾病手当の受給などの場合も給与明細に記載する必要がある。新しい給与明細の記入方法に関して、政府はガイダンス外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発行、8つのケースを紹介して説明している。

法改正は、2017年に政府の依頼で英国王立技芸協会(RSA)のマシュー・テイラー会長を座長としてまとめた雇用慣行の見直しに向けた報告(通称:テイラー報告)で、最低賃金や国民生活賃金など、労働者と賃金に関する法律の明確化を提言されたことがきっかけだ。従来の制度が日雇い労働者やゼロ時間契約労働者を対象外としていたことが最低賃金違反などの不正を招く一因となっていた。

給与明細を従業員に渡す義務を怠った場合の罰則は規定されていない。給与明細が支給されない、または受け取った給与明細に必要な情報が欠けている、記載されていない控除が行われているなどの場合は、労働者は雇用審判所に訴えることができる。審判所が認めれば、違反企業の情報は審判所のウェブサイトで公開される。審判所は、給与明細に記載されていない控除に対して、提訴13週前まで遡及(そきゅう)して返済を命じることができる。

(注)ゼロ時間契約労働:雇用主が必要とする時間だけ就労し、報酬は就労時間に対してのみ支払われ、週当たりの労働時間が明記されない雇用形態。

(岩井晴美)

(英国)

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