国際商工会議所、仲裁地としてのロシアを分析

(ロシア)

欧州ロシアCIS課

2019年04月22日

国際商工会議所(ICC、注)ロシア委員会は4月3日、「仲裁地としてのロシア外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」と題するレポートを発表した。ロシアを仲裁地とする場合の評価について調査したもの。調査は2018年末~2019年初に実施され、外国企業を含む仲裁関係者168人からの回答を得た。調査結果は、国際的に有名な法律事務所ベーカー・アンド・マッケンジー、ホーガン・ロベルス、ノートン・ローズ・フルブライトが分析の上、まとめた。

回答者の168人(うち56人は英語話者)は、ロシア人の法曹関係者が中心。回答者の所属先は、主に外国法律事務所のロシアオフィス、ロシアの法律事務所、ロシア企業、外国法律事務所のロシア国外オフィス、外国企業、大学・研究機関、仲裁機関。回答者のうち66%は過去5年間で1度以上、ロシアでの国際仲裁案件に関わったことがあるとしている。

調査結果によると、ロシアの法曹関係者から多く選ばれる仲裁地は、ジュネーブ/チューリヒ、パリ、ストックホルム、ロンドン、ウィーン、モスクワ、シンガポール、香港、ニューヨーク、ドバイ、クアラルンプールの順だった。英語話者を除くと、パリ、ストックホルム、ジュネーブ/チューリヒ、モスクワ、ウィーン、ロンドン、シンガポール、香港、ニューヨーク、ドバイ、クアラルンプールの順となる。レポートでは、伝統があり仲裁制度が発達した欧州の仲裁地を選ぶ傾向にあると分析しているが、モスクワやサンクトペテルブルクなどの法律事務所は欧州企業を主要顧客にしていることを考えると、欧州企業とロシア企業が物理的に近接している国を仲裁裁判地に指定することは十分に合理的だ。

仲裁地の選択は、契約上どちらの側が強いかに左右される。当事者、弁護士、法廷代理人、仲裁者などの希望や契約書上で、ロシア法が根拠とされるか否か、紛争金額の大きさなどが反映される。ロシアが選ばれない理由としては、国際仲裁案件に対するロシア裁判所の慣行、ビザ取得の必要性、紛争金額が高額な場合、などの指摘がみられた。国際仲裁を受けたロシア国内での執行体制に関する評価については、国際標準を「十分に反映している」との回答はわずか14%にとどまり、「十分に反映しているが改善が必要」「反映していない」の回答は合計で85%に達した。ロシア人法曹関係者を含む回答者の多くが、裁判所の多くが行政当局による影響を受けていること、裁判所の仲裁判断への軽視や執行拒否、外国仲裁判断の承認・執行を規定しているニューヨーク条約規定(ロシアはソ連時代の1960年に加盟)について、不統一で矛盾した解釈を提示しているなどを問題視しており、ロシアの裁判所は仲裁判断を尊重しているとは言えないと回答した割合は41%に達している。

(注)1920年の創設。本部はパリ。世界130カ国以上に国内委員会(企業・団体で構成)を設置。WTO、EUなどの国際機関、各国政府に対し、民間の立場からの意見具申や政策提言活動を行うほか、「インコタームズ」をはじめとする国際取引慣習に関する共通ルールづくり、国際商事取引紛争、商事犯罪、海賊事件などに関する情報提供を行っている。

(齋藤寛)

(ロシア)

ビジネス短信 55554bab44e295bf