自動車産業調査機関、一連の通商政策で最大37万人分の雇用喪失と試算

(米国)

ニューヨーク発

2019年02月26日

自動車産業の調査を専門とする米国の非営利団体センター・フォー・オートモーティブ・リサーチ(CAR)は2月15日、1962年通商拡大法232条(以下、232条)に基づく鉄鋼・アルミニウム製品や自動車・同部品への追加関税、1974年通商法301条(以下、301条)に基づく中国製品への追加関税、北米自由貿易協定(NAFTA)に代わる米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)といった、トランプ政権下における一連の通商政策が、米国の自動車市場と雇用に与える影響に関する調査結果を発表PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)した(注1)。

今回の調査でCARは、2018年7月6日から段階的に適用されている301条に関しては2019年1月の措置が踏襲されること、USMCAに関しては11月30日に署名された内容のままで発効されることを前提条件とした。加えて、現在、トランプ政権内で検討されている232条に基づく自動車・同部品に対する輸入制限措置は、25%の追加関税が課されると仮定した。完成車、部品の輸入量と金額は主に2017年の実績に基づいている。なお、商務省は、2019年2月17日に232条に基づく自動車・同部品の輸入に関する安全保障調査結果を大統領に提出外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますしているが、内容は公表していない。

CARはこれらの前提の下、鉄鋼・アルミニウム製品への追加関税が、カナダとメキシコを対象外とするか否かの2パターンに分け(注2)、それに自動車・同部品への追加関税が、(1)カナダ、メキシコ、韓国を適用除外とする場合(注3)、(2)EUのみ対象とする場合、(3)英国のみ対象とする場合、(4)日本のみ対象とする場合、(5)EU、英国、日本も(1)に加えて適用除外とする場合、の10のシナリオを検証した。

その結果CARは、影響が最も大きいのは、カナダとメキシコも鉄鋼・アルミニウム製品への追加関税の対象のまま、自動車・同部品への追加関税が、カナダ、メキシコ、韓国のみを適用除外とする場合とし、1台当たりの販売価格が平均2,750ドル上昇(輸入車は3,700ドル上昇)し、その結果、販売台数が年間約132万台減少し、雇用者数は合計で37万人減少すると試算した。また販売店への影響に関しては、1店舗当たり4.6人分の雇用に相当する売上高約260万ドルが減少するとも指摘した。

なお、自動車・同部品に対する追加関税に関しては、業界団体やメーカーなどもその影響を懸念している。米国自動車工業会(AAM)は2月18日、自動車・部品へ追加関税が賦課された場合、70万人の雇用が喪失すると発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますしたほか、フォルクスワーゲン(VW)では同社利益の約13%に当たる250億ユーロが失われると指摘されている(ロイター2月21日)。

(注1)本調査は、販売店で構成される全米自動車ディーラー協会(NADA)の資金により実施された。

(注2)カナダとメキシコは、USMCA合意後も引き続き232条に基づく鉄鋼・アルミニウム製品への追加関税の対象となっている。

(注3)USMCAのサイドレターにおいて、カナダとメキシコからの輸入については、ライトトラックと年間260万台までの乗用車を対象外としている。部品については、メキシコからは年間1,080億ドルまで、カナダからは324億ドルまでを対象外としている。また、韓国は米国との間で、米韓自由貿易協定(KORUS)の再交渉で合意しており、韓国側は同国を適用除外とすべきと要求しているとみられている。

(大原典子)

(米国)

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